市民ランナーの心とらえる「サブ4の魔力」の正体 「ギリギリ4時間以内」のゴールがもっとも多い

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マラソンは2時間5分が1つの壁といわれており、(2021年に鈴木健吾がクリアするまで)日本人には難しいと考えられていました。

大台の2時間5分台(キリのいい目標)を狙うのは難しいため、記録よりは順位狙いの走りになっていた可能性が考えられます。

男子マラソンの停滞を概数効果のみで説明しようとするのはさすがに無理がありますが、停滞の背景には何らかの意思決定(目標タイムやペース配分)の歪みがあったと考えるのが妥当でしょう。

(出所:『行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも“つい”やってしまう不合理な選択』より)

行動経済学の観点から見た「1億円の報奨」の意味

日本記録が更新されないなか、男子マラソン界に風穴を開けたのは、1億円という報奨金でした。

行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも“つい”やってしまう不合理な選択
『行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも“つい”やってしまう不合理な選択』(日本実業出版社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

2015年、日本実業団連盟は男子マラソンの低迷を打破するために、日本記録を達成した選手に1億円の報奨金を設定しました。その結果、6年で4回、計1分以上日本記録が更新されています。

この1億円という報奨金は、行動経済学の観点から見れば「コミットメント」と「リフレーミング」に該当し、有効な戦略だと考えられます。

コミットメントとは、行動に制限を設け他の選択肢をなくしてしまう手法です。リフレーミングは、自信の思考の枠組み捉え直し、変化させることです。

1億円という莫大な報酬を設けることで、それを狙うように行動に制限を設けたという点でコミットメントといえますし、順位の駆け引きだったマラソンレースを、記録の取り合いという枠組みに促した点でリフレーミングといえます。

この報奨金はコミットメントとリフレーミングの掛け合わせであり、行動経済学の視点からみても絶妙な打開策でした。

男子マラソンの例は、概数効果を含む認知バイアスによって記録更新が停滞し、それをうまく打開する報酬を設けた例といえるでしょう。

参考文献
[1]Allen, E. J., Dechow, P. M., Pope, D. G., & Wu, G. (2017). Reference-dependent preferences: Evidence from marathon runners. Management Science, 63(6), 1657-1672.
今泉 拓 東京大学大学院学際情報学府博士課程所属、東京スポーツ・レクリエーション専門学校非常勤講師(スポーツ分析)

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いまいずみ たく / Taku Imaizumi

1995年生まれ。東京大学理科2類に入学、教養学部に進学しコンピュータサイエンスを専攻。大学3年生のときに、データスタジアム株式会社で野球データの分析を開始。以降、株式会社ネクストベースにて野球データの分析を担当するなど6年間データ分析に従事。東京大学大学院学際情報学府では、認知科学・行動経済学を専攻。行動経済学とスポーツ分析を掛け合わせたスポーツの発展や技術向上に力を入れている。主な実績に、ARCS IDEATHON(ラグビーの傷病予測コンペティション)優勝、第18回出版甲子園準優勝、スポーツアナリティクスジャパン2022登壇など。

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