「飲食に関するガイドラインなどもすべて自分たちで決めたので大変でした。また、出店もハードルが高い。飲食となると、給排水設備を整える必要がありますし、出店するにもアパレルの併設にするために、ある程度の広さがないといけないんです」(増田氏)
こうしたいくつかの制約から、当初は出店できる場所が限られていた。そうなると、知ってもらうのも難しい。
「ニコアンド自体は8割を超える認知度があるんですが、カフェの認知度はなかなか広まらなかったんです」(増田氏)
アパレルがカフェ事業に手を伸ばすことは、前例がないわけではない。しかし、このように、分野が違いすぎるだけに難しいことも多く、撤退する事例も多いのだという。
コロナ後のリバウンドの波に乗る
さらに追い討ちをかけたのは、コロナだった。コロナ禍を機に撤退するアパレル併設のカフェも増えていったが、ニコアンドコーヒーはそうしなかった。
「僕たちも当初はカフェだけでは採算が取れなかった。でも、ライフスタイル全体の中で食を提供したい、という思いが強かったんです。そこで、アパレルや雑貨で、カフェを続けていけるだけの利益を出して補填していました。最終的にはカフェ単体で収益を担保できるようにしたいと思い続けながら、です」(増田氏)
しかし、コロナが収束を見せ、街に人が増えるようになると、状況は変わっていった。
「光が差したのは、コロナが明けてから。これまでのストレスで、外で飲食をしたい、人と一緒にコーヒーや食事を楽しみたいというお客様が、すごく増えました。やっぱり、人とのふれあいを皆さんがすごく大事にしてるんだなと。そして、一気に売り上げを伸ばしました。お酒を飲まなくても、昼間から話したり楽しんだりする場所として、カフェはすごく大事なんだと思いましたね」(増田氏)
ところで、このところ私(筆者)は、若い人の行動や、あるいは都市の様子を眺めながら、「せんだら需要」という言葉を提唱している。これは「1000円でだらだらできる場所に対する需要」のことで、せんべろを基に名付けた。
カフェ、サウナ、シーシャなどが流行しているのは、この表れなのだ……と、さまざまな記事で書いているわけだが、特に都心では、再開発や座れる場所の減少なども相まって、「せんだら」できる場所が減っており、もっとも手軽な「せんだら」消費ができる場所としてカフェが選ばれているのではないか、と指摘している。
だが、このような記事を書くなかで、想像以上に郊外や地方に住む人からの、共感の声が寄せられることに気づいた。それだけ、「せんだら」できる場所を求める雰囲気が増しているのだろう。
ニコアンドコーヒーがコロナ後、業績を伸ばしたのは、そういった時代のトレンドにうまく乗った、乗るまで我慢できたのもあったのだろう。
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