発達障害同士の会話が「絶望的な結論」に陥るワケ 高校卒業後、5回以上転職を繰り返す30歳男性

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私が、生活保護の利用は国民の権利ですと重ねると、「生活保護になるくらいなら、野垂れ死んだほうがいいです」。

排除されるのは発達障害のある人

貧困 生活保護 
「生活保護は惨めじゃないですか」と拒絶するジュンイチさん(編集部撮影)

ジュンイチさんから聞いた話で印象に残ったことがひとつある。それは、2016年に神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた、元職員の男(植松聖死刑囚)が入居者19人を刺殺した事件をめぐるやり取りだ。

当時、ジュンイチさんが働いていた職場でそのニュースが話題になった。ジュンイチさんがある同僚に「ひどい事件ですね」と話しかけたところ、こんな答えが返ってきたという。

「そうか? 俺は植松を賞賛するよ。だってあいつらに金を使うなんてもったいないだろう。そんな金があるなら、俺に回してくれよって思うもん」

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診断前ではあったものの、このころから発達障害の特性があるという自覚があったジュンイチさんが「もし僕が障害者だったらどうするんですか」と尋ねると、「ここから排除する」と言い放たれたという。

ジュンイチさんの友人たちが口にするという障害者に向けられたネット上のヘイトスピーチは、ここで記すことがはばかられるほどおぞましい。そして、そのむき出しの憎悪はすでに現実社会をもむしばんでいる。

私は、発達障害のある部下や上司を持ったことでメンタルに不調をきたしたという人たちがいることも知っている。ただ排除されるのはマイノリティの側、発達障害のある人であるケースのほうが圧倒的に多い。

安楽死を口にするまで追い詰められた発達障害の人たちと、障害者を排除しろと主張する一部の人たち。両者の間にある“緩衝地帯”が崩壊したとき、その先に待つ未来はどんなディストピアなのか。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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