ところで、なぜ財務省は、「債務残高/GDP」ではなく、素直に「債務残高」と経済成長率の相関関係を示さなかったのだろうか。
それは、経済評論家の三橋貴明氏が明らかにしている。彼はブログで、OECD諸国の政府債務残高と実質経済成長率の間には正の相関関係があるという、財務省にとってはまことに不都合なデータを示したのである。
もっとも、先ほど述べたように、重要なのは、政府債務ではなく、政府支出の規模と経済成長との関係である。
これについては、すでに朴勝俊・関西学院大学教授による論文がある。その中で朴教授は、OECD各国の政府支出の伸び率と名目・実質GDP成長率の間に強い相関関係があることを示したばかりではなく、政府支出から名目GDPへの因果性の検討まで行っている。
特に、この論文の中で、1997年から20年間のOECD諸国の政府支出の伸び率とGDP成長率の相関を示した「図表1」における日本の位置に着目されたい。
この20年間で、OECD諸国の中で最も低成長であるだけではなく、最も政府支出の伸び率が低かった国、それが日本である。
要するに、財政出動が成長につながるか否かを議論する以前に、日本は、1997年から20年間のゼロ成長の中で、ほとんど財政支出を拡大していなかったのである。
財務省の資料には「拡大する財政出動の結果、過去20年で政府債務残高は約2倍となったが、名目GDPはほぼ横ばい」などと書いてあったが、冒頭から虚偽を記載している。
正しくは、「財政出動を拡大していないにもかかわらず、過去20年で政府債務残高が約2倍になった」のだ。
経済財政に関する見識のなさ
だが、この財務省提出資料の問題は、財務省が悪いなどという話にはとどまらない。
なぜなら、これほど間違いだらけの資料が公開されたというのに、出席していた財政審の委員たちはもちろん、経済学者など有識者の誰からも、この問題点を指摘する声が出てこなかったからだ。
この経済財政に関する見識のなさこそが、日本経済の「失われた30年」の真因である。そう思わざるを得ない。
おそらく、「経済学者・経済官僚の知的水準」と「実質経済成長率」との関係には、強い正の相関があるに違いない。
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