
世界はあらゆる面で転換点に立っている。財政支出の見直しもその1つだ。
その象徴がアメリカである。スコット・ベッセント財務長官はCNBCのインタビューで、景気拡大が政府支出によって人為的に支えられていると述べたうえで「市場も経済も、政府支出からデトックス(有害物質の排出)の期間に入る」とした。
公的資金をやみくもに使わないとの宣言であり、積み上がったアメリカ国債務残高に関する配慮を思わせる。トランプ政権はこれに代わって、民間資金の国内外からの投資を呼び込む策に出ている。
一方、ドイツは別の道を歩んでいる。次期首相となるキリスト教民主同盟のフリードリヒ・メルツ党首は、国防費とインフラ支出の大幅な増額で連立候補先と合意した。そのためにGDP(国内総生産)比で1%を超える国防費は債務ブレーキの対象から外すことを検討している。
債務ブレーキとは財政赤字を対GDP比で0.35%未満に制限するものだ。これに関し、ドイツ連銀も政府債務がGDP比60%未満の場合には財政赤字を同1.4%まで拡大することを許容。このうち0.9%までは投資に回す方法を提案している。
野放図な財政拡張にならないよう工夫しているともいえるが、ドイツが死守してきた財政規律の牙城は崩れかけている。もちろん、そうした過度な規律こそがドイツの長期停滞を招いたとみる向きも多く、財政弛緩を許容できる余裕があることも確かだ。
ただし、周りに促されてブレーキを緩和させたことが、タガが外れるきっかけにもなりかねない。使った資金でまずは景気回復が果たせるかが重要だが簡単ではない。そのうえ、ドイツの財政弛緩によってほかのユーロ圏もそれに倣うなら、欧州としてのまとまりが危ぶまれよう。
取り沙汰され始めた「債務者ボーナス論」
ひるがえって日本の財政状況は、債務残高の対GDP比が251.2%と悪い(国際通貨基金調べ、2024年10月)。2025年度予算案は115.5兆円と過去最大を更新し、新規国債の発行額は税収増で30兆円を下回ったものの、プライマリーバランスの黒字化目標は未達だ。
そんな中で、物価上昇局面における「債務者ボーナス論」が取り沙汰されている。物価が上がる一方で調達済みの金利が変わらなければ、いわゆるインフレタックス分が政府にはメリットになるという話だ。
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