
金相場が上昇基調を強めている。本欄でも1オンス当たり2500ドルを超えた昨年9月に金相場を取り上げたが、1年も経たないうちに同2900ドルを突破して3000ドルに迫ろうとしている。
今の金相場の上昇トレンドはコロナ禍が世界に拡大した2020年ごろを起点とする上昇波で、今年で5年目となる。当時はコロナ禍による先行きへの漠然とした不安感から、金がマネーを吸い寄せた。まさに「恐怖計測器」との異名を持つ金の真骨頂といえる。
次に2022年に勃発したウクライナ戦争の影響で、ドルを決済通貨とするロシアとの貿易取引が経済制裁の対象となった。その頃から、制裁リスクを回避したい中国を中心とする新興国の中央銀行による金の購入量が急増。昨年も3年続けて1000トンの大台を超えた。
不安定な国際情勢が「ドル離れ」を生み、公的機関が“無国籍通貨”としての金準備を積み増したことが新たな需要を創出した。
そして足元では欧州からアメリカへの金塊の輸出が急増している。背景にあるのが、トランプ政権下での予測不能な関税政策だ。
金の現物市場はロンドンにあり、イングランド銀行の金庫には世界中の中央銀行や商業銀行から預かっている金塊が大量に保管されている。一方、金の先物取引はニューヨークで行われ、大西洋をまたぐ金の現物と先物の裁定取引は巨大な投資資金の流れをつくっている。
ロンドンの金在庫をアメリカの先物市場で売りヘッジする多くの金融機関にとって、金に関税がかかれば裁定取引で損失が発生する可能性がある。潤沢な金在庫を事前にアメリカに輸出しておけば、先物売り契約に現渡しすることで損失を回避できる。現に足元の金相場の急上昇はアメリカの先物取引が主導しており、先物は現物に比して大幅なプレミアム価格となっている。
トランプ政権が既存の秩序を次々と破壊する中、世界中で先行きへの不安感が高まり、経済制裁とアメリカの金利安への期待感がドル離れを誘発し、先物市場の投機筋が上昇相場に拍車をかける──。これが今の金相場上昇の背景だ。
急落する天然ガス相場のナゼ
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