SNSが災害時の情報インフラとして使えない理由 偽情報すら収益化する姿勢で被災地の活動に悪影響

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NHKはアジアや中東地域からインプ稼ぎが広がっていると報じている(*1)。インプ稼ぎは1月2日の日航機と海上保安庁機の羽田空港衝突事故でも起きており、人々の注目が集まる話題やニュースがあれば不確実性が高い投稿が溢れる状況に陥っている。

*1 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240202/k10014341931000.html

偽の救助要請は大きな問題だ。筆者は、熊本地震、西日本豪雨でツイッターを対象に救助要請ツイートの研究を行っているが、これまでは番地などが具体的に書かれている場合は実際に救助を求めているケースが多かった。

能登半島地震では「石川県川永市」という実在しない地名の救助要請で詳細な住所を記載されていた。図はX上で大量に存在する同じ住所を投稿する別々のアカウントの一部をキャプチャしたものだ。このようなコピー投稿は実際の救助要請でも行われており、オリジナル投稿かどうかを見きわめることが困難になっている。

共同通信の取材では(*2)、偽の救助要請に基づき消防が出動したケースが少なくとも2件あったことが明らかになっている。消防の担当者は、不確実性の高い投稿でも本当かもしれず無視できないと取材に回答している。ソーシャルメディアに投稿された救助要請を見た人による110番通報で警察の対応が割かれるという問題も起きている。

*2 『京都新聞』2024.2.9朝刊など

実在しない地名を使った偽の救助要請投稿

インプ稼ぎや偽・誤情報対策の不十分さは、2022年に起業家のイーロン・マスクがツイッターを買収したことによる。イーロン・マスクは、Xと名称を変更しただけでなく、偽・誤情報対策チームをリストラし、収益化を強化するなど運営方針や機能変更を矢継ぎ早に行っている。

その結果、自治体との連携も不透明になっている。自治体の運営するアカウントが突然凍結されるようになった。読売新聞によると、沖縄県では県の防災サイトに投稿を転載していたが、最新の投稿ではなく反響が多い過去の投稿が表示されるようになり、地震や津波が新たに発生したと誤解される可能性があるため転載を中止している(*3)。このような凍結の理由や解除の方法、アルゴリズムの変更が説明されることはない。

*3 https://www.yomiuri.co.jp/national/20231004-OYT1T50142/

収益を得るための不確実な投稿が溢れるにもかかわらず、消防、警察、自治体は対応せざるを得ない。情報インフラという社会的な位置づけがむしろ課題になっている状況がある。ソーシャルメディアは機能不全であり、被災地の活動に悪影響を及ぼしているという現実を受け止め、報じ方を変えていく必要がある。

従来対策と取材の限界

偽・誤情報対策のための議論は、プラットフォームの対策と利用者のリテラシー向上が2本柱となっている。これは冒頭のメディアからの問い合わせにリンクしている。

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