80歳女性の「生きがい」を奪う"食品衛生法の問題" 国の「漬物は食中毒のリスク」専門家はどう見る

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山本さんは、「1次産業や地域の味をつなぐ担い手が不足しているという根本的な問題に目を向けなければならない」とも強調する。

「漬物製造が続けられないと断念する人が相次いでいますが、その根本的な課題は、後継ぎがおらず長期的な設備投資に踏み切れないことだと思います。法改正で、この問題が改めて取り沙汰されましたが、農家の高齢化と後継者不足という問題は、もっと前から起こっている。本当の意味で味の伝承を考えるなら、より根本的なところから考えないといけない」(山本さん)

うめひかり
和歌山県で梅干し作りに取り組む「うめひかり」スタッフ。前列右から2番目が山本さん(写真:山本さん提供)

地域の味を守ろうという機運

前出の宮尾茂雄さんは、「問題が表面化したことで、地域の味を守ろうという機運が生まれたのは明るい兆し」とも指摘する。「これを機に、若い人が文化継承のために動いてくれるなどの動きも期待したい」。

法改正が決まってからの移行期間、長年にわたって漬物を作ってきた高齢者らは、苦悩を重ねてきただろう。生きがいや楽しみとして作り続けてきた人も多いだけに、継続するかどうか悩み抜いた人も少なくないはずだ。

小規模で漬物を作る多くが野菜の栽培農家で、多くが高齢者。ただでさえ作り手が少ない中で、法改正を機に撤退を決めた人もいる。

補助金や共同加工場の整備などの支援の動きがあっても、「そこまでしては続けられない」と判断する高齢者も少なくない。前出の前橋さんは言う。

「発酵文化を含めた和食文化は、これまでも幾多の困難を乗り越えてきた。衛生管理の徹底は、時代の流れや環境の変化を踏まえても必要で、法改正は致し方ないと考える。時代に合わせて変化しながら伝統を守ろうとする努力が必要ではないか」

郷土の味と、作り手の生きがいが途絶えることのないよう、活路となるような道筋を見出せるのか。規制強化が目前に迫っている。

 

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【前編:道の駅から「おばあちゃんの味」が消える深刻事情

松岡 かすみ フリーランス記者

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まつおかかすみ / Kasumi Matsuoka

1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、出版社勤務を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。著書『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新書)

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