80歳女性の「生きがい」を奪う"食品衛生法の問題" 国の「漬物は食中毒のリスク」専門家はどう見る

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法改正によって、漬物製造には基準を満たす専用スペースが必須となり、今年6月以降も製造を続けるには多額の設備投資が必要になることから、高齢の作り手を中心に漬物作りを断念する動きが起きているのは、前回の記事(タイトル:道の駅から「おばあちゃんの味」が消える深刻事情)の通りだ。

きっかけは大規模食中毒

そもそも、法改正の発端は、2012年に北海道で起こった大規模な集団食中毒だ。

札幌市の食品会社が製造した白菜の浅漬けによって食中毒が発生し、169人が症状を訴え、8人が死亡した。製造過程での消毒が不十分なまま、漬物を作り続けていたことが原因とされている。

この事件を受け、厚生労働省主導で、漬物製造業も営業許可制となることが決まり、「HACCP(ハサップ)」に適合した食品衛生管理が義務付けられる。

HACCPは、食品衛生法の改正により、2021年から食品を扱う全事業者に義務付けられた衛生管理の手法で、国際的な衛生基準だ。原料の受け入れから出荷まで、健康被害の可能性があるリスク要因を、科学的な根拠のもとで管理する。

アメリカやEU(欧州連合)などではすでに、基本的にすべての食品にHACCPの実施や、HACCPの考え方に基づいた衛生管理が義務付けられており、今後も世界各国で同様の流れが見込まれる。

だが、個人で漬物製造を行う生産者らからは、「漬物に国際水準が必要なのか」という声も多い。

「あくまで菌ありきで考える発酵食品と、あらゆる菌をなくすというHACCPの考え方とは、相反する部分がどうしてもある」

こう話すのは、発酵のメカニズムに詳しい東京農業大学教授の前橋健二さんだ。

和食に使われる味噌、しょうゆ、酢、みりん、酒はすべて発酵食品で、漬物もその1つ。発酵とは、食品に微生物が増えることによって起こる変化で、温暖で湿度の高い気候風土を活かした日本特有の食文化だ。

「一般的に発酵食品は、菌が存在するのが大前提で、良い菌が増えると悪い菌が減るという考え方で作られています。伝統的な発酵食品は、雑菌がたくさん存在しても、良い菌が増えていくごとに、腐敗や食中毒の原因となる細菌が増殖しにくくなり、結果的に食の安全が保たれるという考えがベースです」(前橋さん)

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