80歳女性の「生きがい」を奪う"食品衛生法の問題" 国の「漬物は食中毒のリスク」専門家はどう見る

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実際、厚労省は規制強化の対象を漬物全般としたことについて、「浅漬けとそれ以外などを区別する線引きが難しい」(担当者)とする。作り方が異なり、食中毒リスクの観点において差があったとしても、ひとくくりにせざるを得ないのが実情のようだ。

こうした中、伝統の味を守ろうとする動きが各地で広がり始めている。

伝統の味を守ろうとする動き

「漬物作りを続けたい人の思いや、味の伝承をできるだけ守っていきたい」。食品衛生法の改正で今年6月以降、漬物などの製造業の営業許可が必須なることを受け、高知県は1月29日、営業許可取得の基準を満たす施設改修や機器の導入に対する補助金を創設した。

それぞれの地域の実情に応じて運用できるよう、市町村と協調する制度とし、補助率は、市町村負担額の2分の1以内。県の補助上限は個別加工施設50万円、共同施設100万円で、改正法施行前から営業する事業者が対象となる。

3月1日時点で、県内34市町村のうち「支援制度を創設済み」が23市町村、「検討中」が8市町村、「取り組む予定がない」のが3町村だという。

「可能な限り、幅広い方に補助制度を活用してもらうことで、漬物文化の伝承を守っていけたらと考えています」(高知県地産地消・外商課)

前回の記事にある「いぶりがっこ」の産地・秋田県横手市も、県との共同助成を行う。補助金の創設のほか、市の施設に漬物の製造保管場所を増設し、共同利用できるように整備や改修を行った。

また、生産者が改修や営業許可を得るための手続きなどについて、個別に相談できる専属の相談員を2022年から配置。高齢の生産者が、許可を得るための煩雑な手続きを理由に製造をやめるのを防ぐ目的だという。

“支援があるなら、もう少し頑張ろうかな”とする生産者も増え、2021年に同市が実施したアンケートでは、187人のうち製造継続の意向を示したのは、当初の1割から約半数に増加した。

「いぶりがっこは、食事だけでなく、お茶請けとしておやつ代わりにも食べたりする地域の味。できる限り、守っていきたいと思っています」(横手市食農推進課)

「手作り漬物がなくなる前に、僕らと一緒に製造所作りませんか?」

今年1月、SNSのこんな投稿が注目を集めた。発信の主は、梅の産地として知られる和歌山県みなべ町で、梅干し製造会社「うめひかり」を営む山本将志郎さん(30)。

山本さんは、全国各地で農家の後継者不足が問題になる中、耕作放棄地を活用し、梅栽培に励んでいる。

法改正によって、各地で漬物作りを断念する生産者が増えている事態を受け、山本さんは「必要最低限の小さな梅干し製造の設備を整えて、全国のおばあちゃんたちにオーナーになってほしい」と発信。今後、必要な設備を整備するための費用を、クラウドファンディングで募るなどし、製造を続けたい人をサポートしていく予定だ。

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