アップル「EV開発から撤退」の意味と、次なる探索 「iPhoneと車との連携強化」は新たな段階に入る

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
拡大
縮小

アップル自身はEV計画から撤退したが、iPhoneと自動車との連携強化は、2024年に新たな段階に入る。

今年発売されるポルシェ・マカンやアストンマーチンに実装される次世代CarPlay(iPhoneとクルマのインフォテインメントシステム=情報取得と娯楽体験を連携させる機能)は、自動車メーカーのデザインや雰囲気を前面に押し出しながら、iPhoneとコラボレーションする仕組みとなった。

より自動車のことを理解するという点においては、アップルが自分たちでEVを作ろうとしたことは、完全なムダではなかったかもしれない。

次に待ち構えるのは?

少し中途半端な存在だったアップルカーの計画がなくなったことで、アップルは本業であるスマートフォンとコンピューター、ウェアラブル、ホーム、サービスから、次のビジネスの柱を生み出すことになる。

Apple Watchでは、「健康」というあらゆる人の関心事により深く踏み込みながら、早期に症状を察知し、スムーズに医療につなげていく。これにより、iPhoneとApple Watchのセットが、生活に欠かせないものとしての存在感を強化する。

3月8日に発売したM3搭載のMacBook Airでは、「AI PC」というインテルのマーケティングワードを用いて、クラウド側ではなく手元のマシンでのAI処理を、Macの優位性としてアピールし始めた。ネットワーク不要、プライバシーを守りながら、高度なAI活用を進める環境を打ち出していく。

同様に、2024年のiPhoneやiOSの最新版でも、より明確にAIを普段使いする方法を提示することになるだろう。

そして2024年2月に発売されたApple Vision Proは、1984年登場のMacintosh以来、iPhoneが登場してもなお、「画面の中」にとらわれていたコンピューターの利用を、「空間」に解放する存在だ。

これにより、コンピューターを使う「場所」である家庭やオフィス、学校などの空間への影響が広がっていくことが考えられる。

EVの探索は失敗に終わったが、ニーズやトレンドへの対応を行いながら、着実で優位性を作れるチャレンジを、アップルは今後も行っていくだろう。

この連載の一覧はこちら
松村 太郎 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT