加えて、アップルには、すでに携帯電話、コンピューター、タブレット、ウェアラブル、サービスといった確固たるビジネス部門があり、クルマだけに集中できる環境ではない。その点で、EV事業をリードする人材が不足していたと言えるかもしれないが、これは異業種参入の難しさだろう。
アップルはテスラに追いつけなかった
特に重要だったと思われる要因は、アップルらしさを発揮するチャンスがなかったことではないだろうか。
簡単に言うと、アップルが自動車を完全に再発明し、人々の行動変容を起こす未来像が描けなかったということだ。
現在のEVの核となる価値は、バッテリーと充電ネットワーク、制御ソフトウェア、自動運転機能の3つだ。そこに、アップルの強みである情報通信やエンターテインメントはなく、前述の3つにアップルが優位性を発揮できる領域はなかった。
2022年モデルのテスラ・モデル3を日々運転していても、実感するところだ。
例えば東京から冬の苗場のおよそ200km往復では、95%で出発し、往復の道中、高崎で5分充電するだけで、15%のバッテリーを残して帰宅できた。雪道での修正は素早く、少し姿勢を崩しても破綻しない制御の優秀さに驚かされた。アップルカーが出るまでもなく、iPhoneとの連携は完璧だった。
iPhoneがテスラのカギとリモコンとなり、乗り込む前にエアコンとバッテリーを暖めておくことができる。iPhoneを持って近づけばカギが開き、iPhoneのカレンダーに登録されているホテルのチェックイン予定から、乗り込んだときに自動的にナビをセットしてくれる。
移動中は車載の大画面だけでApple Musicを楽しみ、iPhoneに届いたメッセージを音声で聞き取り声で返信しながら、同行する友人と連絡を取り合った。
テスラ車は、iPhoneとの十分な連携が実現しており、アップルカーを待つまでもない。現在の世界で最も人気のあるEVの現実であり、アップルが発揮しうる強みも、顕在化しないと考えている。
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