経営者だからこそ感じる「労働組合」の重要性 データ重視で失われた「対話」の共同体を求めて

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青木:その背景には、新自由主義的価値観を内面化した自己実現/自己責任論があると思っています。勝負に負けたら自己責任だし、勝ったら総取りみたいな、すごく個人主義的な価値観です。そのせいで労働者側も、悪い意味で経営者側のロジックで考えてしまって、労働組合も成立しなくなった。個人化が進み、横の紐帯がどんどんなくなっているんですよね。それが労働者側の問題の一つではある。

同じように、経営者側もしんどいんだけど周りに相談できなかったり、公の場でしんどいって言っちゃうと株価が下がってしまったり、常に強い個人でいることを強いられてしまう。自己責任のイデオロギーで分断されて、誰も信用できない状態になっているのではないでしょうか。

日本の大企業のことを考えても、かつては下請けの中小企業を守るために国内の会社に仕事を回すことがあったわけですけど、グローバリゼーションによって工場は海外に移転して国内産業がどんどん空洞化している。日本の企業で確かに日本国に税金は払っているかもしれないけど、日本人を雇用してない。そういうことが起こってきていて、直接の対話とか人間同士の関係からは程遠い状況にある。それがこの失われた30年を回復させない一要因になってるような気がしています。やはりNPOでも経営者層と労働者側に分断があると感じますか。

経営者も感じる労働組合の重要性

今井:個人的には感じています。経営者は経営者で先ほども話があったと思いますが、グローバルな目線で社会がどうなっていくのか考えているので、社会の変化に敏感でリソースを多様な変化にさかなければいけない状態になっているような気がします。

今井紀明(いまい のりあき)/認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長。1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立し、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受ける。対人恐怖症になるも友人らに支えられ復帰。偶然、中退・不登校を経験した10代と出会い、自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。経済困窮、家庭事情などで孤立しやすい10代が頼れる先をつくるべく、登録者1万2000名を超えるLINE相談「ユキサキチャット」で全国から相談に応じている(写真:認定NPO法人D×P)

例えば、生成AIなどの技術的な進歩や国内外の大きな変化などがありすぎて、経営者は国内の声だけを聞き取れる環境にないのかなと。働いている人とか支援現場も含めて、みんなとうまく対話をして組織をつくっていきたいから労働組合は大切だよって、個人的な意見として社内では言っているんです。自分でいうのもなんなんですが、経営者に労働環境改善を訴えることは大切だよ、と。

でも、国内じゃなくて世界の変化を見なければいけないという状況に経営者の頭の中は引き裂かれているのだと思います。その中で、うちのNPOでいうと寄付者さん数千人に支えられている、多くの個人や法人に支えられている組織なので、株式会社などの事業体と違って新しい動きをつくることができるかもしれません。NPOとして何ができるかってところはこの本を読みながらも未知数ですが、株式会社とか行政とは違った形で、労働者と対話的な環境をつくっていくことなのかもしれないです。

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