春の新生活「気持ちを病まないため」に必要なこと いきなり距離を縮めようとすると失敗する

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そのほかの変化としては、卒業や進学、進級、異動や配置換えなどでの環境の変化です。

通う場所だけでなく、新しい人との関わりもあります。自分自身が異動をしなくとも新しい人を迎え入れるというのはそれだけでも大きな変化なのです。

新しい人との関係構築によるストレス

そこで、この時期にもう一つ気を付けたいのが、新しい人との関係構築によるストレスです。

以前、「○○デビュー」という言葉がはやりましたが、今まで身近な人たちと良い関係が築けなかった場合に、「社会人デビュー」などと称し、今までの自分とは違う印象を周りの人に与えたいと必死になるあまりに、本来の自分でない演出をしてしまうことが挙げられます。服装や言動などを含めて印象チェンジに邁進するわけです。

「形から入る」ことも一定の効果はあり、ポジティブに動くエネルギーはとても大切ですが、空回りになってしまう可能性もあります。自分でない自分を演じていて疲れてしまうという訴えもありました。自分としての理想を目指すのは、大いに賛成ですが、今の自分とあまりに乖離していないか、自分が苦しくならないかなど、自分自身との対話を重ねて無理のないようにしたいですね。

また、早く相手と親しくなりたい思いから、いきなり距離を縮めようとして失敗してしまうケースもよく耳にします。いきなり相手のことを細かく聞き出そうとしたりすれば、プライベートに踏み込まれるようで、相手はよい気持ちを持ちません。また、反対に自分のことを知ってもらおうと「自己開示」しすぎるのも問題です。苦労話やぶっちゃけ話もライトなものならよいですが、深刻なものだとどう対応してよいかわかりません。

それから、フレンドリーに接したいという気持ちから、ため口で馴れ馴れしくすることも問題です。特にビジネスでは、どんな相手でも「です、ます調」の丁寧語でやり取りをしたいですね。年下や後輩だからと言って、ため口は基本NGです。

せっかくの努力が、相手に猜疑心や警戒心を持たれてしまい、一層距離が生まれてしまっては本末転倒です。

仕事でもプライベートでも、初めて会った人には、「比較的よい印象を持ってもらう」「もっと知りたいなと思ってもらう」程度で十分です。そこから少しずつ、回数を重ねて徐々に、お互いを理解し、わかり合っていくことが大切です。

そうはいっても、関わり方以前の問題として、そもそも人と関わるのが苦手という人もいるでしょう。自分は「話し下手」と思っている人に多いのではないでしょうか。人と関わるときは、必ずしも流暢に話せる必要はありません。よどみなく話す人よりも、訥々と話す人のほうがかえって好感を持てたりするものです。新しい関係性を築く際、自分だけでなく相手も緊張しています。たとえそう見えなかったとしても、です。自分だけがあたふたしているのではないと思うことで、少しは緊張がほぐれるのではないでしょうか。

新しい季節を爽やかな気持ちで乗り越えるための一助になれば幸いです。

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大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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