英国の統計「移民約50万人の見落とし」ヤバい背景 データは信頼できる?EUから離脱を問う火種に

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そんなわけで、2007年にブルガリアとルーマニアがEUに加盟した際、両国からの移入民の数の予測に英国政府がきわめて慎重だったのもうなずける。

それは、両国に対する移民制限が廃止された2014年の時点で副首相を務めていたニック・クレッグの、「私たち政府は、安易な予測を触れ回るべきではない。曖昧な推測は、移民制度に対する国民の信頼を損なってしまう恐れがある」という発言にもはっきりと表れていた。

また、一部の政界関係者は、例の予測が大幅に外れた原因は「前の労働党政権の怠慢のせい」だとした。下院公共業務精査委員会は、国際旅客調査を「当てずっぽうよりも少しましなだけ」「要領の悪い手法」と評した。

「EU離脱の是非を問う国民投票」案が現実となった2016年においても、推定値の精度はたいして向上していなかった。

国の統計部門の最高執行責任者である国家統計官を務めるジョン・プリンガーは、下院特別委員会で次のように尋ねられた。

「私たちは移住者について正確に把握できていない、ということでしょうか。つまり、この国にやってくる人、この国で働いている人、この国に定住する人、この国を去る人についての情報がないということですか?」。

プリンガーはおおむねそのとおりだと答えるしかなく、精度があまり向上していないことについても認めざるをえなかった。

人々に大きな不安を抱かせた

『ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか』(集英社シリーズ・コモン)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

統計データは客観的で確かなものだと思われがちだ。だが、移住者の数が従来の推定値よりもはるかに多かった事実が国勢調査によって明らかになったことによって、数字の確かさに対する信頼は揺らいでしまった。そして、この衝撃のあとには不安が沸き起こった。

多くの人にとって、「この国はやってくる人を正しく数えられていない」と思えるこの状況は、移民問題自体が手に負えなくなっている証拠のように見えた。人というのは、あることについてのデータがあると、なんらかの権力を与えられた気になる。一方、なんのデータもないと、世の中が大混乱していると思ってしまうのだ。

※各国の通貨は、国際通貨基金(IMF)のデータをもとに、可能な限り、当時の為替レートで円に換算して( )で記しています。

ジョージナ・スタージ 統計学者(英国議会・下院図書館所属)

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Georgina Sturge

統計学者(英国議会・下院図書館所属)。専門は公共政策の計量的分析。英国国家統計局の人口・移民統計に関する専門家諮問グループの一員。国会議員のために調査を行い、統計の利用法や背景情報を解説する上級統計学者。オックスフォード大学移民観測所の顧問も務める。2011年、オックスフォード大学卒業(英文学)。2013年、マーストリヒト大学修士課程修了(公共政策及び人間開発)。

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尼丁 千津子 英語翻訳者

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あまちょう ちづこ / Chizuko Amacho

英語翻訳者。神戸大学理学部数学科卒業。主な訳書に『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』『「ユーザーフレンドリー」全史』『馬のこころ』『マッキンゼー CEOエクセレンス』『限られた時間を超える方法』など。

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