英国の統計「移民約50万人の見落とし」ヤバい背景 データは信頼できる?EUから離脱を問う火種に
これは英国国家統計局にとって大問題となった。基本的に、国際旅客調査(注:この調査で移民も含めた入国者の数が調べられていた)での標本の「母集団」となるのは、英国に出入りするすべての人だ。
そして、好都合にも国の大半が1つの島に収まっていることから、出入国時に必ず通らなければならない出入国管理所の数は限られていて、国を出入りする人の流れがどこで起きているかを正確に捉えやすかった。
国際旅客調査が進められるにあたり、英国に移り住んで働く人(それにもちろん観光で訪れる人も)の大半は、この国の「主要空港」であるヒースロー、ガトウィック、マンチェスターに降り立つはずだとみなされた。
そのため、2000年代半ばに東ヨーロッパからの到着便が大幅に増加した小規模な地方空港においては、2009年以前は調査がまったく行われていなかったか、あるいはごく一部でしか実施されていなかった。
つまり、何十万人もの入国者が見落とされ、推定値を出すためのデータにまったく含まれていなかったのだ。
スープの塩加減を確認するときは、鍋からスプーンで1杯だけすくって味見をすればいい。英国の出入国管理所が全国に1つしかなかったら、そこで標本を抽出して移入民の数を推測するのは、スープを1つの鍋からスプーン1杯だけすくうのと同じぐらい簡単な話になるだろう。
揺らいでしまった統計調査への信頼
だが実際は、英国には公認の出入国管理所が、113の主要施設も含めて少なくとも270ある。要は、量も塩加減もそれぞれ異なるスープが入った、270の鍋がいっせいに火にかかっているようなものだ。統計職員がこのすべての鍋から味見をするのは無理な話だ。それゆえ、各空港に到着する人数の割合を事前に推測しなければならない。
ヒースローとガトウィックに入る人が圧倒的に多いはずだと考えた統計職員たちは、それらの空港で集中して調査することにした。昔は、ポーランドのポズナンからドンカスター・シェフィールド空港に人々が大挙して押し寄せることはなかった。そのため、統計職員たちは同空港には調査員を1人も配置していなかった。
だがその後、まさにそうした大移動が始まったことで困った事態に陥った。さらに、「A8圏からの新たな移入民の数は、英国への移入民の総数にほとんど影響を及ぼさない」と予測されていたにもかかわらず、まったくの見当違いだったという問題も起きた。