日本はこのまま「国家の衰退」を黙って待つだけか いまこそよみがえる、福沢諭吉からの警告

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19世紀の政治家兼歴史家であったフランスのフランソワ・ピエール・ギョーム・ギゾー(1787~1874年)は、『ヨーロッパ文明史-ローマ帝国よりフランス革命にいたる』(1828年、安土正夫訳、みすず書房、1987 年)の中で、西欧文明の優秀さを、物質文明とキリスト教的精神文明だと主張しているが、まさに向かうところ敵なしの西欧の力は、この2つを持つ限り非西欧に対して盤石であると考えていた。

イギリスの歴史家であるヘンリー・トーマス・バックル(1821~1862年)も『イギリスにおける文明史』(Hitory of Civilization in England、1857年)の中で、自然環境の苛酷さに打ち勝った西欧の力を誇示し、それが人間の想像力を生み出し、自由を生み出したのだと述べ、西欧文明の輝かしさを褒めたたえている。

福沢諭吉の『文明論之概略』

福澤諭吉(1835~1901年)はこの2人の書物に影響され、『文明論之概略』(1877年)を執筆する。福澤は、日本が西欧の列強と対等に戦うためには、西欧のたどった道を学び、その文明を習得することが緊急の課題であると述べている。

「ヨーロッパといえども、その文明の由来をたずねれば、必ずこの順序階級を経て、もって今日の有様にいたりしものなれば、今のヨーロッパの文明は、すなわち今の世界の人智をもってわずかに達しえたる頂上の地位にあるというべきのみ。されば今世界中の諸国において、たといその有様は、野蛮なるもあるいは半開なるも、いやしくも一国文明の進歩を謀るものは、ヨーロッパの文明を目的として議論の本位を定め、この本位によって事物の利害得失を談ぜざるべからず。本書全編に論ずるところの利害得失は、悉皆(しっかい)ヨーロッパの文明を目的と定めて、この文明のために利害あり、この文明のために得失ありというものなれば、学者その大趣意を誤るなかれ」(松沢弘陽校注、岩波文庫、29ページ)

明治維新の日本は、日本の未来に危機感をもつすぐれた人物が多く登場した時代といえる。ローマの繁栄がそのすぐれた人物が統治したことから生まれたように、日本がアジアの中で西欧に対して少なくとも独立し、アジアの雄として一矢報いることができたのは、こうした先見の明をもつ人々が、当時次から次へと登場したからである。

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