「生活のために働く意識」が貧しさにつながる理由 「やりたいことを追求する」とお金もついてくる

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例えば、アニメーターは給料が低いとされますが、多くの人がアニメーターに夢を抱きます。これはよくいわれていることなのですが、仕事の内容がおもしろければおもしろいほど、たとえ給料が低くても人が集まってくるのです。

宮崎駿さんも最初は全然売れないアニメーターだったといわれていますが、それでもやり続けたというのは、お金よりも追いかけられる夢があったからではないでしょうか。

生活のためにお金を稼ぐ意識が、心を貧しくしてしまう

今でこそ「脳科学」という分野も世の中の認知度が高まっていますが、私が大学生の頃は、「そんなんじゃ絶対に飯が食えないからやめておけ」と散々脅されたのを覚えています。

私は理系でそれなりに成績が良かったので、学校の先生やみんなからは「医学部に行け!」「教職取っておけ」といわれていました。

なぜ、周囲の人がそのようなことをいうのか、よくよく聞いてみると、「将来収入がいいからだ」というようなことだったのです。

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「物理なんかやっても絶対飯が食えないぞ、貧乏だぞ」と脅かされれば、思春期の頃なので不安になりました。しかし、お金が儲かるからという理由で人生の方向を決めたことは、結局一度もありません。

これは「生活のために働く、職業を決めてしまう」ということが、結局は心を貧しくしてしまうということが、自分なりにわかっていたからではないでしょうか。

やはり、日本人は生活のために働くという意識が強すぎるため、それによって国全体として少し貧しくなってしまっている部分があるかもしれません。

私自身は、生活のためというよりは多くの興味や好奇心があるので、いろいろな仕事をしていますが、結局は自分のやりたいことをやっていたほうが結果としてお金もついてくるというふうに、これまでの経験から感じています。

茂木 健一郎 脳科学者

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もぎ けんいちろう / Kenichiro Mogi

1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』など著書多数。

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