「やりたいことは副業で」と盲信する人が陥る罠 副業でも、やりがい搾取されることは十分ある

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副業は、個人同士の契約が多いため、「やりがい搾取」が横行しやすい状態にある。さて、これがもし副業の問題点なのだとすれば――重要なのは「やりがい搾取」にならないような価格設定をおこなうことではないだろうか?

実際、デザイナーの飯塚さんも「価格設定がいちばん難しかった」と語っていた。たしかに金額交渉は慣れないと難しい。

価格設定について、書籍『やりたいことは「副業」で実現しなさい』は、「価格表をつくるべきだ」と述べている。つまり、複数のメニューABCを用意して、もっとも売りたいメニューをBに設定し、それよりも量や質を増やして高額のAのメニューと、量や質を減らして価格も下げたCのメニューを用意せよ、ということだ。詳しくはぜひ本書を読んでみてほしいが、私もこれは「なるほど!」と納得した。たしかに複数価格を用意することで、自分の価格がどの程度が適切か考えることができるし、さらに仕事量に対する価格も考えることができる。

このように、どのように価格設定について考えるべきか? そしてどのような賃金であれば、不当な労働だと感じないのか? という点について、私は「副業だからこそ」しっかり考えることが必要だと思っている。

「やりがい搾取」を避けるために大切なこと

会社にしろ、個人間の契約にしろ、労働に対して金額の交渉をすることを、難しく感じる人は多い。そこには――今後さらに深掘りたいテーマだが――日本に生きる私たちが「お金に関することを大きな声でしゃべるのは下品だ」と考えてきた価値観が影響しているのかもしれないし、あるいは、本田由紀が『軋む社会 教育・仕事・若者の現在』で指摘したように、「やりがい」を仕事に求めるあまり、それ以外のテーマについて雇用主や発注側と話すことをためらってしまうという事情があるのかもしれない。なぜ仕事の対価の交渉はこんなにも困難に感じてしまうのか? という理由については、私はまだはっきりとした答えを見つけられていない。

だがいずれにせよ、副業だからこそ、仕事の対価についてしっかり考えることは、重要なポイントであることは間違いないだろう。それは会社ではなく個人間の契約だからこそ、「やりがい搾取」を避けるための、大切な論点なのだ。

泣きながら副業してる
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三宅 香帆 文芸評論家

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みやけ かほ / Kaho Miyake

1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。天狼院書店(京都天狼院)元店長。2016年「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」がハイパーバズを起こし、2016年の年間総合はてなブックマーク数ランキングで第2位となる。その卓越した選書センスと書評によって、本好きのSNSの間で大反響を呼んだ。『人生を狂わす名著50』(ライツ社刊)、『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)など著書多数)。4月『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)を発売予定。

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