2016年当時、『逃げるは恥だが役に立つ』は、「搾取」という言葉を流行させるきっかけをつくったのではないか、と私は思っている。やりがいになるから、やってみたら楽しいから、と金銭以外の理由をもって働かせようとする社会にNOを突き付ける。それが、みくりの姿勢だった。
しかしこのようなみくりの姿勢は、しばしば「小賢しい」と評価されることにもなる。いちいち金銭や理屈や合理性を求めるなんて、なんだか小賢しい。そんなふうに評価されてしまうことに悩むみくりは、たしかに日本のさまざまな問題を内包している。
副業こそやりがい搾取されやすい立場にある
私はみくりの問題は、現代の「副業」について考えるうえでも、大きなヒントになると思っている。
つまり、副業こそ「本業ですでに稼いでいるから、いいじゃん」「友達同士で頼んでいるんだから、いいじゃん」と、やりがい搾取されやすい立場にあるのではないだろうか?
実際、前回お話を伺ったデザイナーの飯塚さんは、みくりと同じような問題を抱えていたのだ。金銭の交渉は、どうにも「小賢しい」と思われそうで、印象が悪くなりそうだから控えがちになってしまう。そんな悩みを持っている人は、みくり以外にもたくさんいるのではないだろうか。
これについて、2023年に刊行された副業を推進する書籍『やりたいことは「副業」で実現しなさい』(下釜創、ダイヤモンド社)を参照してみよう。本書は、本業の正社員にやりがいを求めるのではなく、副業でやりがいのある仕事をすることで、やりたいことを仕事で実現することを薦める本である。つまり前回話を伺ったデザイナーの飯塚さんが述べていたことと同様に、仕事でやりたいことを実現するために副業を使おう、というのだ。
帯文には、こうある。
「本業」を保険にして、「副業」で自己実現をはたす、幸せな働き方のすすめ。
――たしかに言いたいことはよくわかる。なぜなら私自身、そのような考え方で副業をやっていた人間だからだ。本業はIT企業の転職しやすそうでお給料も安定しそうな仕事、一方で副業では自分のやりたいことをやれるような仕事。それこそがいいバランスなのではないか、と。
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