日本の教育格差 橘木俊詔著
この20年間で日本の雇用は変わった。年功序列制が崩れかけ、年齢を重ねてもあまり給与は上がらない。終身雇用制も揺らぎ、大企業に勤めていても定年までの雇用が保証されているわけではない。そもそも就職できない若者も多い。
警察庁の「平成22年中における自殺の概要資料」によれば、「就職失敗」による自殺者は424人と前年より2割も多くなった。424人のうち153人は20歳から29歳までの若者であり、大学生46人を含んでいる。
こういう雇用の悪化は経済要因で説明されることが多い。確かにグローバル化の進展で国内製造業が生産拠点を海外にシフトし、少子高齢化によって内需が伸びないという原因もあるだろう。ただ事態を正確に把握するにはもうひとつの視点が必要だ。「教育」だ。本書は新書版だが、実に多くの情報が紹介され、精密に分析されている。
本コラムの読者は人事関係者が多いだろうから、本書の内容の多くは既知のものだろう。読みながら「こんなことは常識ではないか」と思うかもしれない。しかし読み終える頃には認識を深め、教育と雇用は連続しており、教育の変調が経済の悪化と関連していると考えるようになるだろう。
ちなみに著者の橘木俊詔氏は経済学者。教育問題の論者は教育学者が多いが、本書は経済学の視点を持っている。
内容をかいつまんで紹介しておこう。まず本書は学歴と賃金を比較している。
日本の中卒の賃金を1.00とすると、高卒は1.09、短大・専門学校卒は1.10。大学・大学院卒は1.60である。大学・大学院卒が「高賃金獲得者」グループであるのに対し、中・高・短大卒の「低賃金獲得者」グループに分かれている。数が多いのは大卒と高卒なので、大卒と高卒が二極化していると言える。
もっとも世界的には日本の賃金格差は小さい。日本の大卒が1.60であるのに対し、アメリカ2.78、ドイツ1.85、韓国2.33、イギリス2.60、フランス1.92。先進諸国の中で格差が最も小さい国が日本なのである。この指摘は興味深い。
さらに本書は分析を進め、大卒が二極化しているので、現在は三極化していると主張している。(1)ブランド・名門大学の卒業生、(2)普通の大学の卒業生、そして(3)高卒という3つのグループだ。