日本の教育格差 橘木俊詔著
高校には普通科、職業科、総合学科がある。専門の職業教育を受けられるのは職業科(商業、工業、農業、情報)であり、1970年の頃まで40%を占めていた。現在では20%に減り、普通科70%、総合学科5%だ。普通科や総合学科は、国語、数学、英語、社会、理科を学ぶ。さて普通科の高校生はどうなるか。
現在の日本では、ほぼ全員が高校に進学する。そして半数以上が大学に進学し、3分の1近くが短大や専修学校に進学するため、就職するのは高卒者全体の2割以下である。普通科の高校生でも進学せずに就職しようとする者はそれなりにいる。しかし彼らは職業訓練を受けておらず、手に職がない。就職できなかった多くの者がフリーターになっているのが現状だ。
大学にも同じことが言える。理系学生は専攻が職業に生かせるだろうが、文系の場合はほとんど専攻が職業に役に立たない。著者は、日本では「仕事」よりも、「人格の発展」に役立つような教育に価値が置かれているのではないかと述べている。大学は「教養教育」の場であり、「職業教育」は二の次というわけだ。
しかし現在の大学を見ていると「教養教育」という建前は破綻しているのではないかと思う。今の大学は職業教育も与えていないが、学生の人格も発展させていないと思う。
著者は経済学者らしく現実的な処方箋を導き出している。まず前提として、これから人材ニーズが増大する産業を上げている。サービス、医療・介護、教育、研究に従事する労働者は間違いなく増大する。これらのニーズに的確に応えるのが国家の人材戦略というものだ。
そこで考えられるのは、文系の定員を減少させて、理系の学生を増大させること。医療や研究分野の人材ニーズを満たすためだ。
文系の場合は、企業に就職してから職務に生かせるように、営業職、人事・総務職、経営管理職、経理職という業務を遂行できる科目を中心にした教育を行うべきであると述べている。
確かにそのとおりだと思う。現在の大学卒業生の多くが企業の人材要件を満たしていない。教育の方法も方向も間違っているからだろう。このままでは日本はグローバルに戦えない。
昨年に改正された大学設置基準が2011年度に施行され、キャリア教育の実施が義務づけられたが、著者が提唱している「職業教育」とはかなり違っているように感じる。大学のカリキュラムや学科定員まで、抜本見直しする必要があるのではないだろうか。
(HRプロ嘱託研究員:佃光博=東洋経済HRオンライン)
岩波新書 840円
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