「紅白歌合戦」最低視聴率でも評価悪くないワケ YOASOBIとK-POPアイドルの圧巻のパフォーマンス

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そもそも紅白とは何だっただろう。私が子どもの頃、紅白はその年に流行した歌謡曲や演歌が歌われ、一年の歌謡界を総決算するようなイベントだった。そしてそれら歌謡曲とはテレビが流行させたもの。だから紅白は、テレビが世に広めた曲を、テレビが人気者にした歌手たちが歌う、テレビによる音楽の「まとめ」の時間だったのだ。

当時は「レコード大賞」も同じ大晦日に放送され、大賞や新人賞を受賞した歌手たちがTBSの車でNHKに向かうと言われていた。レコ大とセットでテレビが作った流行歌を総ざらいするのが紅白歌合戦だった。

そうした流行歌はテレビ局やレコード会社や芸能事務所が作り出すもので、いわば大人たちが決めるものだった。「レコード大賞の受賞曲って事前に決まってるんだぜ」と昭和の子どもたちはわけ知り顔で話していた。芸能界はどこかそんなうさんくさいもの、大人たちの企みで構成されるものに見えていた。とはいえ、そんな中に自分が共感できる歌や歌手たちを見出して自分のもののようにも感じていたわけだが。

去年のJ事務所について起こったスキャンダルは、こうしたテレビと芸能界の昔ながらの関係の完全な終焉を示したのではないか。もうそんなドロドロした関係は終わったのだと、思い知らされた。流行歌を大人たちがこっそり相談して作る時代は消え失せたのだと。

興味深いのが、過去のJ事務所と紅白の関係だ。実は昔は薄かった。

大きな変化は「2010年代」に起きた

70年代に紅白に出ていたのはフォーリーブスと、当時は在籍していた郷ひろみのみ。80年代も田原俊彦と近藤真彦に途中でシブがき隊が加わる程度。90年代から2000年代もSMAPとTOKIOが常連化しつつ、その合間に新人として嵐やタッキー&翼、関ジャニ∞やHey! Say! JUMPらが1回ずつ出た程度だった。

これが2010年代に一変する。常連に嵐が加わったうえで、毎年5組6組と出場歌手が増えていた。J事務所がいないと紅白が成立しない勢いだ。おそらく、視聴者の高年齢化が進む中、若年層の視聴率獲得にJ事務所が欠かせない存在になっていったからではないか。SMAPや嵐、TOKIOらの解散と活動休止が続いてもなお、2022年はKinKi Kids、関ジャニ∞、King & Prince、SixTONES、SnowMan、なにわ男子の6組が出場。King & Princeはメンバーが少なくなるなどJ事務所の勢いが失われつつある中でも頼りにしていた感がある。一部の週刊誌が部数を落とす中、逆に表紙でJ事務所に頼るようになったのと同じことだ。

ところが2023年、突然紅白はJ事務所を失った。そもそもはテレビが生み出した流行歌の「まとめイベント」だった紅白が、そんな音楽文化と訣別するしかなくなったのだ。

だが音楽は2010年代中盤からすでに、テレビが生み出すものではなくなりかけていた。紅白はテレビではなくSNSが生み出した音楽文化を採用し始めた。視聴率の核を握る高齢層に「こんな歌手知らない」と言われても出場させざるを得ない。紅白の構造改革はすでに2010年代から始まっていたのだ。J事務所は、若い層をつかめるタレントたちの宝庫として、構造改革の過渡期にはちょうどよかった。だから頼っていた。

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