災害時にデマが広まる背景には、「承認欲求」と「アテンション・エコノミー」がある。
承認欲求とは、人が社会的な承認や注目を浴びたいという心理状態を指す。SNSの世界では「いいね」やシェア数が、この承認の象徴となる。例えば、2016年の熊本地震の際には、あるユーザーが「ライオンが逃げた」という虚偽の情報を拡散し、その結果、逮捕される事態に至った。このような行為は、注目を浴びたいという個人的な欲求が原動力となっている。
アテンション・エコノミー(関心経済)とは、人々の注意を引きつけることが経済的価値を生むという概念で、承認欲求を一層強化する。
最近のXでは、特定の条件を満たすアカウントが広告収益を得られるシステムが導入されている。例えば、フォロワーが500人以上であること、過去3カ月のインプレッション(表示回数)が500万件以上であることが条件になっている。
このシステムにより、アテンション・エコノミーは個人レベルに浸透し、ユーザーはより多くのフォロワーやインプレッションを獲得するために、過激な投稿や偽情報を流布するインセンティブを持つようになる。
生成AIが社会的混乱を加速する
生成AIの普及は、個人が容易に偽画像や偽動画を作成できる環境を生み出し 、ディープフェイクの大衆化が起こった。これは、偽情報や誤情報の爆発的な増加を意味し、「Withフェイク2.0」とも称される新たな局面に突入しているといえる。例えば、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突では、AIによって作成された偽画像や偽動画が多数投稿され、世論工作に利用されている。
災害時のデマ拡散にも大きな影響を与えている。
2022年の静岡県の水害の際には、ドローンで撮影されたとされる静岡の水害の様子を示す写真がSNS上に投稿されたが、実はそれはAIによって作成された偽画像であった。
作成者は特別な技術を持つ者ではなく、一般の市民だった。彼は「Stable Diffusion」という誰でも使用可能なサービスを用いて、この偽画像を作成していた。布団の中でスマートフォンを見ている中で、いつものように投稿しただけだとメディアの取材に答えている。
現在は過去の画像や動画がデマに使われることが多い。しかし近い将来、AI技術がさらに進歩すれば、人間の目にはいよいよ見分けがつかない偽画像や偽動画を、より容易に作成できるようになる。その結果、偽情報の数は膨大になり、社会的な混乱を一層加速させるだろう。
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