「熱帯の人は楽に生きられるから貧しい」の大誤解 貧しい国の労働時間は富裕国よりも長い現実

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移民たちの生産性が急激に高まるのは、突然、優れた生産設備(工場、オフィス、店、農場など)で、優れたテクノロジーを使って働けるようになり、質の高いインフラ(電気、輸送、インターネットなど)と、有効に機能している社会の仕組み(経済政策、法制度など)の助けを借りられるようになるからだ。

それまで栄養不良の驢馬に乗って苦労していた騎手が突然、サラブレッドの競走馬に乗り始めたようなものだ。騎手の能力ももちろん大事だが、レースの勝敗を大きく左右するのは、騎手が乗っている馬(または驢馬)だ。

貧しい国の人々が貧しいのは個人のせいではない

では、なぜ、貧しい国は低い生産性を招くような遅れたテクノロジーや、非効率な社会の仕組みに甘んじているのか。この問題を公平に論じるためには、ここではとうてい扱いきれないほど数多くの要因を検討しなくてはならない。

価値の低い一次産品ばかりを生産するよう宗主国から強いられた植民地支配の歴史もあるし、政治的な深い分断やエリート層の資質の欠如(非生産的な地主、不活発な資本家階級、ビジョンを欠き、汚職にまみれた政治指導者)もある。

富裕国に有利な国際経済体制の不公平さもある。これらは数ある要因の中の最も重要なものにすぎず、ほかにもまだまだある。

しかしはっきりしているのは、貧しい国の人々が貧しいのは、個人の力ではどうしようもない歴史的、政治的、技術的な理由による部分が大きく、それらの人々の何らかの欠点のせいではないということ、ましてやまじめに働こうとする意志がないせいなんかでは、けっしてないということだ。

ココナッツの話に示されているような、貧しい国々の貧しさの原因についての根本的な誤解は、富裕国でも貧しい国でも、グローバルエリート層が貧しい国々の人々の貧しさを個人のせいにするのを助けている。

ココナッツの話が正しく修正されれば、一般の人たちがそれらのエリート層に対して、過去の不正義と賠償の問題や、国際関係の力の不均衡や、国内の経済・政治改革について、きびしい問いを突きつけるきっかけになるだろう。

(翻訳:黒輪篤嗣)

ハジュン・チャン ロンドン大学経済学部教授

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Ha-Joon Chang

ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)で経済学を教えている。世界を代表する経済学者のひとり。著書に、『ケンブリッジ式 経済学ユーザーズガイド』(東洋経済新報社)、No.1ベストセラーとなった『世界経済を破綻させる23の嘘』(徳間書店)、『悪しきサマリア人(Bad Samaritans)』(未邦訳)などがある。

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