このような説が語られるときには、(侮蔑的な主張なので、ふつうは私的な場でしか口にされないが)しばしばココナッツが使われる。すなわち、この「熱帯地方には労働倫理がない」説によれば、熱帯の国々が貧しいのは、人々がココナッツの木の下で寝そべって、その実が落ちてくるのを待つばかりで、自分で何かを育てようとか、作ろうとかしないからだというのだ。
もっともらしい説だが、これは完全な誤りだ。
第一に、熱帯の国々には、ココナッツの木の下で寝そべるような愚かな人はめったにいない。たとえ、ただでココナッツを手に入れたくてもだ。そんなことをしたら、落ちてきたココナッツに頭蓋骨を砕かれる危険がある(実際、落下したココナッツに当たって死ぬ人はいる。都市伝説では鮫に殺されるより、ココナッツに殺される人のほうが多いといわれているほどだ。もちろんそれはほんとうではないが)。
だから、「怠け者の原住民」が仮にいたとしても、木の下では寝ない。別の場所で待ち、ときどきココナッツが落ちていないかどうか、木の下に確かめに行くというのがふつうだろう。
貧しい国の人の方が、労働参加率が高い
それは冗談としても、熱帯に多くある貧しい国々の人たちには労働倫理がないというのは、まったくの作り話だ。実際、貧しい国の人たちは富裕国の人々よりよっぽど働いている。
まず、労働年齢人口を比べてみても、貧しい国のほうがはるかに多い。世界銀行のデータによれば、2019年の各国の労働参加率は、タンザニアが87%、ベトナムが77%、ジャマイカが67%であるのに対し、ワーカホリックの国と考えられているドイツは60%、米国は61%、韓国は63%だった。
貧しい国では、学校へ行かずに働いている児童の割合もきわめて高い。
UNICEF(国際連合児童基金)の調査によると、2010~18年の期間、後発開発途上国(LDC)では5歳から17歳までの子どもの平均29%が働いていたと推測されるという(この数字には家事や、幼い弟や妹の世話や、新聞配達などの「お手伝い」をしている子どもの数は含まれていない)。
エチオピアでは子どもの半数近く(49%)が働き、ブルキナファソ、ベナン、チャド、カメルーン、シエラレオネでは児童労働率(児童労働者の割合)が40%にのぼった。
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