生成AI出現が問う「学校の宿題」をすることの意義 なぜ宿題をするべきか大人は答えられるか?

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生徒だって、その宿題をすることが本当に自分のためになると理解すれば、自分の力で取り組むはずです。生成AIはおろか、親などの手を借りることもないでしょう。

生成AIを使って宿題をすることを禁止するかどうか。禁止するなら、どのように守らせるか。これらは問題の本質ではないと私が述べた理由が、ここにあります。

生成AIが登場してからの教育界の混乱は、単に、この非常によくできたツールが登場したために、改めて「生徒が自分で宿題をやらない」という危機感が高まっているだけにすぎません。言ってしまえば、かつては「家族に手伝ってもらってはいけません」と言っていたものが、「生成AIに手伝ってもらってはいけません」に成り代わっただけでしょう。

宿題のあり方を問い直す

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そう、生徒が自分で宿題をやらないという現象は、今に始まったことではないのです。他者が書いた読書感想文や自由研究がフリマアプリで取引され、問題になったのも記憶に新しいところです。生成AIの登場をきっかけに問題が改めて顕在化しただけであって、生徒が自分で宿題をやらないことを生成AIのせいにするべきではありません。それ以前に宿題のあり方を問い直さなくてはいけない。

教師の「アリバイ作り」のためなどではない、本当に意味のある宿題ならば、あえて生成AIを禁止するまでもないわけです。今も昔も、宿題とは本来、自分で取り組むことに意味があるべきものです。

ところが、いつしか宿題は教師たちの「アリバイ作り」となり、「自分の力で取り組むべき、本当に意味のある宿題」ではなくなってしまった。これこそが問題の本質なのです。

そして、このように問題を捉えてみれば、生成AIの登場は教育にとって悲劇ではありません。むしろ真に有意義な教育環境のもと、使いようによっては子どもたちの学習効果を格段に高め、思考力や想像力、創造性を育むことに寄与する非常に有用なツールとなりうるでしょう。

石川 一郎 カリキュラムアドバイザー/21世紀型教育機構理事

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いしかわ いちろう / Ichiro Ishikawa

1962年東京生まれ。早稲田大学教育学部社会学科地理歴史専修卒業。暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクールなどで教鞭を執る。前かえつ有明中・高等学校校長。著書に、『2020年の大学入試問題』(講談社現代新書)、『2020年からの教師問題』(KKベストセラーズ/ベスト新書)などがある。

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