町全体もきれいで静かになっているという。1990年代は立小便をする人や路上で寝る人などがたくさんいたが、現在はいない。これは健全になったというより、やはり人々のエネルギーが少なくなったことの表れだという。
ドヤ街は、日本全国の問題がいち早く発生する場所
「労働者たちがプライドを置き、かつて批判していた政府や国家から生活保護を受給している現状がある。町の魅力も薄くなってしまって、複雑な気持ちです」とトムさんは遠くを見つめる。
そして、今後はさらに高齢化が進み、福祉の助けを必要とする人も増えていくのではないか、と続ける。すると直面するのが、横浜市の財源の問題。数年後にはどうなってしまうのか……と憂う彼の話を聞きながら、寿町という小さな一角の現状が、日本全体の問題に重なった。そう伝えると、トムさんは大きくうなずいた。
「ドヤ街は炭鉱のカナリヤ。日本全国の問題がいち早く発生します。寿町で起きていることは、近いうちに日本全体でも起きるのではないでしょうか」
取材を終えて、寿町を後にする。最寄りの石川町駅のすぐ裏手には中華街があり、せっかく来たのだからと散策してみた。派手な街並み、にぎわう人々、あふれる活気、美味しそうな匂いの店……僅かしか離れていないのに、全く違う世界が現れた。それでも寿町で見た景色やにおいや音は、しばらく頭や身体から離れなかった。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら