イギリス人が「横浜のドヤ街」で見た"日本の断面" 寿町、インテリ日雇い労働者もいた30年前から現在まで

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ちなみに、著書名の一部「あほうだんす」は、本来は「アフォーダンス」という認知心理学の概念。紀光さんが口にしたその言葉を、トムさんが「アホな踊り」と勘違いしたエピソードが採用され、タイトルになったのだった。

横浜の中で評判が良くない街にしては、安全な寿町

そのほかにも、寿町で出会った忘れられない人がいるとトムさん。その人は、行きつけだった居酒屋の店員。無口な角刈りの大男で、いつもカウンターの内側にどっしりと立っていた。酔っ払いが迷惑な振る舞いをすると、その巨体で抱え上げて店の外に運び、道路の溝に投げ捨てていたという。

あるとき、泥酔した老人がやって来て、一文無しなのに「酒くれよ!」と騒ぎ始めた。すると店員は老人の前に立ち、胸を手で突いた。ゆっくりと椅子が倒れ、老人の頭は背後にあった金属製の冷凍庫に激突。

「鉄砲を撃ったかと思うような、100メートル先まで聞こえるくらいの大きな音がしました」とトムさん。そのまま老人は動かなくなった。死んでしまったのでは……とトムさんやほかの客が青くなるなか、店員はいつものように老人を抱え上げ、路上に投げ捨てた。だが1~2分すると老人は立ち上がり、見守っていたトムさんたちに笑顔で手を振り、去っていったという。「寿町の老人はものすごくタフだと思いました」とトムさんは苦笑する。

(撮影:梅谷秀司)

ではトムさん自身は、危険な目に遭遇したことはなかったのか? 尋ねると、「ありません。寿町はとても安全です、横浜の中で評判が良くない街にしては」と返ってきた。

「海外のスラムと違って鉄砲を見たことも、刃物を振りかざしている人も見たことはありません。殴り合いは何回か見たことがあるけれど。酔っ払った男が私にパンチをしようとしたことは、2~3回あったかな」

殴られそうになったとき、「文化人類学者の特別な技」を使って事なきを得た。その技とは「逃げる」こと。酔っぱらいは速く走れないですから、とおかしそうに笑った。

時代と共に街は変化しており、寿町も例外ではない。トムさんによると、最も大きな変化の1つは、「日雇いの仕事が激減したこと」。

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