「笑われる奴」「バカにされる奴」こそ最大の脅威だ イノベーターを育てる「漫才学」のすゝめ

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本書はプロジェクト・マネジメント教書でもある。それも経営学部で教わる頭やペンで繰り出す話ではなく、動かす足と、かく汗が人を揺さぶりコトをなしとげていく実話だ。

「M-1は、私と谷と2人で作った宝物です」と島田紳助さんが帯に書いている。2011年に引退して、ほとんど表に出てこなかった紳助さんが「私の提案を、谷は1人で動き、1人で作り上げていきました」とも語っている。核心をなす証言だ。

そう、M-1は「作った」プロジェクト。熱い発意から、ごく少人数でコトが始まる。全漫才師に面談をかけて動き始める。上司、部下、同僚。すんなりとは、いかない。テレビ局、スポンサー。ステークホルダーも多い。提案する。対立する。説得する。巻き込む。くじけない。そのリアリティがステキ!

優勝1000万円×ゴールデン全国放送。「終わった」漫才を復興するにしては振りかぶりすぎている。無茶だ。スポンサー探しもテレビ局探しも難航する。当然だ。商店街や町内会にも営業をかける。くじけない。吉本興業DNAのクソ力がほとばしる!

成功すると自分の手柄にしたがる人たち

20年経って、堂々の金字塔となった。反対していたのに、今になって「M-1は自分の業績だ」とうそぶく元テレビ局の人が登場する。成功したプロジェクトというのはそういうものだ。「あれはオレがやった」と言う人がたくさんいるのが成功した証拠。しかも、妥協せず、ガチンコを貫けたのは、関係するみなさんの「漫才愛」によるものだ。

ぼくもだいぶ漫才が好きなクチだ。ライブにも足を運ぶ。M-1の準決勝も決勝も、吉本の仕事をしていたこともあって無理を言い、このところ毎年現場で見てきた。

本書には予選に臨む芸人たちが舞台脇でひりつくネタ合わせをするシーンが描かれる。ぼくも決勝本番直前、テレ朝のトイレや廊下で壁に向かってネタ合わせする鬼気迫るトップアーティストたちを見て、泣いてしまったことがある。漫才師というアーティストをこのうえなく尊敬する。そして、そんな現場を作ったみなさんのことを尊敬する。

次ページ緊迫した第1回に凝縮された「養分」
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