「笑われる奴」「バカにされる奴」こそ最大の脅威だ イノベーターを育てる「漫才学」のすゝめ

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22年前に開始したプロジェクトが歴史に刻まれる文化にまで育った。そのころ漫才は過去のものになっていて、「前の漫才ブームはたった2、3年で」終わった。のに、「M-1は普通名詞に」なり、「今や漫才師が出ていない番組を探すのが難しい」状況を作り、「ブームではなく、完全に定着した」。全関係者による、偉業だ。

マンザイ。サンパチマイク1本、自分たちで作品を作り、2人で対話するだけの原始的な表現。それで数百万人を爆笑させる。世界にない表現だ。ピン芸やコントは欧米はじめ各地にあり、中国にも似たエンタメはあるが、日本は際立った洗練をみせ、高度な芸に昇華させた。

M-1は練り上げた4分のネタで勝負する年に一度の機会。世界トップの座を狙うのだ。結成15年以内のしばりがある8540組の出場者のほとんどは漫才では食えず、バイト暮らしやプーだったりする。だが優勝者は一夜にしてスターとなる。決勝に進めば景色が変わるという。ストイックな戦場だ。

漫才になだれ込むトップ層

かつて才能あふれる若者は、小説、芝居、映画、音楽、ゲームへと身を投じてきた。創造力がほとばしり、表現力に覚えのある奴らは、ペンに魂をかけ、ギターをかき鳴らして叫び、カメラを担いで走った。

いまトップ層は漫才に来ている。天才クリエイターたちがこのジャンルになだれ込んでいる。楽器もカメラもコンピュータもいらない。目の前にマイク1台あれば、いや、なくたっていい、体2つでぼくたちを揺さぶる。かっこいい。

お笑い芸人。かつて社会の底辺にあった。M-1はそれを上層に引っ張り上げた。笑われる連中が、かっこいい存在となった。バカにされる連中が、あこがれの存在となった。行き場のない、やさぐれていた子が多い。そして最近は驚くほどに高学歴の子も多い。バックグラウンドや血筋やIQは関係ない。面白いかどうか、だけが問われる。M-1は最高の才能を惹きつけ育てる増殖炉である。

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