「silent」チームの新ドラマが盛り上がりに欠く訳 配信トップ「いちばんすきな花」の惜しい点

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ただ、「いちばんすきな花」は、あえて“クアトロ主演”にしたことで、「基本的に4人の出番やセリフなどをほぼ同等レベルで扱わなければいけない」という、良くも悪くも“縛り”のようなものが発生しました。そこに視聴者目線からの難しさが潜んでいます。

4人のキャラクターや背景が違うため、全員に「わかるわかる」「そうなんだ」と受け入れられればいいのですが、4者4様の言動だけになかなかそうはいきません。たとえば1人に対して「この人のパートは共感しづらい」「見ているのがしんどい」などと思われたら、4分の1の時間帯は気持ちが冷めて没入感が下がってしまいます。

その点、「silent」はヒロインを軸にしたシンプルな見方が視聴者に提示されているだけに、「彼女1人が共感させ続けさえすれば、没入感が損なわれることはない」という構成。つまり、ドラマを気軽に見たいライト層にとっては、「いちばんすきな花」のクアトロ主演を見続けるのはハードルが高く、「silent」の単独主演を見続けるほうが気楽で、ほどよい没入感が得られやすいのでしょう。

「こんな友達とこんな部屋で」の妄想

さらに扱うテーマや世界観にも大きな違いがあります。まず「silent」は、音のない世界で再び出会った2人が織りなす、切なくも温かいラブストーリー。一方、「いちばんすきな花」は、年齢も性別も過ごしてきた環境も違う4人の男女が紡ぎ出す、見る者の心を静かに揺さぶる新たな時代の“友情”の物語。

「silent」の青羽紬(川口春奈)、佐倉想(目黒蓮)、戸川湊斗(鈴鹿央士)、桃野奈々(夏帆)は同年代で、想と奈々の聴覚障害という設定以外は、どこにでもいる普通の人。小田急線世田谷代田駅などのロケーションも含めて、視聴者がその世界観に入り込みやすいリアルな日常として物語が描かれていました。

その点、「いちばんすきな花」は、誰かに共感するのが苦手で“2人組”になれない潮ゆくえ(多部未華子)、面倒くさいことを避けるために頼まれごとを何でも引き受けてしまう春木椿(松下洸平)、すぐに男性から恋愛対象にされ、女性からは妬まれることで人と向き合うのが怖い深雪夜々(今田美桜)、友達が多いと思われているが1対1で向き合ってくれる人がいない佐藤紅葉(神尾楓珠)という、普通の人ながら、ややこしい設定の持ち主。

4人は偶然の出会いを重ねて、椿が婚約者と住むはずだった一軒家に集まり、そのコンプレックスや生きづらい性格を共有する友達になっていく……。「4人が偶然出会い、モデルルームのようなキレイな部屋で友情を深める」という物語はリアルというより、「こんな友達と、こんな部屋で会って話して、自分のことを理解してもらえたらいいな」と思わせるファンタジーな世界観の作品なのです。

(画像:「いちばんすきな花」公式HPより)
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