フェンスの取材に行く前に、イマトラの政府庁舎で市議会副議長のアンテロ・ラットゥ氏(70歳)に話を聞いた。
ラットゥ氏によれば、ロシアのサンクトペテルブルク市との距離は約200キロメートルとヘルシンキよりも近く、歴史的にロシアとの経済や観光での関係は深かった。
ただ、市民に特別な国境通過許可が与えられていたわけではなく、もともとロシアの正規のビザが必要で、フェンス建設によって市民の越境に新たな支障が生じることはない。ラップランドの越境事件では、ロシアが移民を政治利用したことは市民にもよく認識されており、建設に反対する人はいないと言う。
「経済は打撃を受けたが、防衛のほうが大事」
しかし、ウクライナ戦争によってロシアとの関係が断ち切られたことは、市の経済に大きな打撃を与えている。
「2010年の時点で、どれほどの金がロシアから来るか予測したことがある。ロシア人観光客増加によって、8年後の観光収入は2億5000万ユーロになると予測した。2010年当時の市予算はわずかに1億ユーロだったことを考えれば、これが失われたのは痛い。また、市の主要産業である製紙業はロシアからの安い材木を原料にしていたが、これも輸入できなくなってしまった」
ラットゥ氏は続けて、「彼らはわれわれを必要とし、われわれは彼らを必要としている。時間はかかり、プーチン大統領の次に誰が出てくるかわからない。しかし数百年の相互交流の経験があるので、ある時点では協力関係が復活するだろう。10年後か20年後かわからないが」と期待を語った。
ただ、ラットゥ氏は、「父も、義理の父も冬戦争(第2次世界大戦時にソ連がフィンランドに侵攻)でソ連軍とたたかった。父は(冬戦争に続く継続戦争で)重傷を負ったが戦線に戻った」と振り返る。
「われわれはロシアもプーチン大統領のことをよく知っている。フィンランドがNATOに加盟できて国民は皆、喜んでいる。スウェーデンの加盟が実現しそうなこともとてもうれしい。経済的な利益よりも、ロシアに対する防衛のほうがもっと大切なことは市民がよくわかっている」と言い切った。
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