フェンス設置の現場でルッカリ副隊長は、「フェンスにロシア軍を軍事的に食い止める意味はない。あくまでも国境管理のため、大規模な不法移民の越境を食い止めるためのものだ」と建設の意味を語った。
「われわれは何か事態が急激に変化したときに備えねばならない。2、3万人の不法移民に対応しなければならないかもしれない。このフェンスがなければ、大規模な不法移民の流入に対応するのは難しいだろう。世界に対して、『この国境に来て不法に入国しようとしてもダメ』というシグナルを発することもできる」(ルッカリ氏)
ただ、2021年に多くの移民がポーランド国境に押し寄せた際は、移民たちが丸太などを使ってフェンスを破壊する様子がテレビで報道された。このフェンスはそうした行動を押し返すだけの強度を持っているのだろうか。
国境警備隊が駆け付けるまで時間を稼ぐ
建設責任者のクルキ氏は「時間をかければどんなフェンスでも破壊できる。大切なのは、時間を稼げるということ。多数の移民が押し寄せる事態になっても、フェンスを突破しようとしているうちに、国境警備隊が駆け付けて十分対応することができる」と意義を強調した。
パイロットプロジェクトで得られた改善点は、「フェンスの網目をもっと細かいものにする必要があること。細かくすれば、フェンスをよじ登る可能性が少なくなる。3キロごとに動物が通れる穴をあけるなどの対策を行い、環境当局からも合格との評価を得た」という。
次の段階として、国境の重点地区12カ所、70キロメートル区間にフェンスを設置する工事を2024年4月から開始する。予算が確保できれば建設を進め、全長は2026年までに最終的に200キロメートルになる。総建設費は想定された3億8000万ユーロ(608億円)以内に収まる見通しという。
ただ、1300キロにわたるロシア国境の全区間に設置することはしない。予算の制約もあるが、フィンランドの北部の国境地帯は森林地帯で道路もなく、フェンスを設置する意味はない、という。
国境での取材の間、フェンスの向こうの森では、頻繁に銃声が響いた。「いつものロシア国境警備隊の訓練。彼らも自分たちの任務を遂行している」と副隊長のルッカリ氏。
NATO加盟やフェンスの建設によって、フィンランドはロシアに対する備えを進めている。しかし、国境地帯は依然として潜在的な緊張をはらんでいる。
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