「国立劇場」建て替え入札業者すべて辞退の裏事情 伝統芸能の聖地が再開メド立たない異常事態に

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2020年に日本芸術文化振興会は「国立劇場再整備基本計画」を発表。そこでは

再整備後の開場時期は、遅くとも10年後を目指す。なお、再整備に伴う休館期間は、実演家の技芸や公演制作の技術等を途切れなく伝承するため可能な限り短くする。

とある。しかし、前述のようにいまだ入札不調で再整備事業自体がスタートしていないのだ。すでに先月、現国立劇場は閉場してしまったから最短でも10年は休館期間になる可能性が高い。3回目のPFIによる入札の時期が遅れ、さらに入札不調となればまったく先が読めなくなる。

関係者は建て替え中の長期休館を危惧

日本舞踊家・藤蔭善次朗さんは「敷地内に3つの劇場(大劇場・小劇場・演芸場)があり、それがまったく使えなくなってしまうことの影響は大きい」と話す。

国立劇場は、歌舞伎座や浅草公会堂と違って人通りが多い立地ではなく、観光名所という雰囲気もないが、舞踊会を開催する際にとても使い勝手がよいとの意見で、「休館中の東京での舞踊会はおそらく浅草公会堂や日本橋公会堂がメインに使われる。この2つの劇場が奪い合いになる」と想像する。

もっとも影響を受けるのは文楽だろう。豊竹咲寿太夫さんは、「文楽には非常に影響が大きい。文楽座は年間の3分の1ほどを国立劇場で公演してきた。歌舞伎とは違い、芸能事務所や会社を持たない文楽座は国立劇場という固定の劇場での長期公演に頼るほかないのが現状」と言う。

また、太夫・三味線が使う「床」や「盆」、人形遣いの舞台の構造である「船底」など、特殊な舞台構造が必要となり、劇場の代替えは難しい。その結果、東京での公演はそうした専門の舞台構造を持たない劇場を借りるしかないので、劇場によっては上演できる演目なども絞られる可能性がある。現在は不確定要素が非常に多く、関係者の不安は膨らんでいるようだ。

国立劇場
手入れも行き届いている国立劇場の観客席(2023年1月筆者撮影)
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