「国立劇場」建て替え入札業者すべて辞退の裏事情 伝統芸能の聖地が再開メド立たない異常事態に
国立劇場は歌舞伎公演を中心とした大劇場(1610席)、文楽公演、各流派の舞踊公演の自主公演などで利用が多い小劇場(590席)と別館の落語等で使用される演芸場(300席)がある。
また、国立劇場裏に伝統芸能情報館があり、歌舞伎俳優、歌舞伎音楽の囃子方など伝承者の養成を行っている分室もある。敷地総面積は約3万1000平方メートル、建物の延べ面積は約3万4000平方メートルだ。
日本では、建物は50年ほど経つと老朽化を理由に取り壊して建て替えることが当たり前のように行われている。しかし、ヨーロパでは修理修繕を重ねて100年以上使うこともよくある。国立劇場も改修ではダメなのだろうか。
そもそも国立劇場は歌舞伎座や新橋演舞場などの民間劇場と違って、広大な敷地面積を有し、建物もゆったりしている。その分、改修も容易だろう。観客として建物内に立ち入るとロビーは荘厳で広々としており、客席もきれいでまったく老朽化を感じない。エスカレーター、エレベーターも整備され、バリアフリーも進んでいるように見える。
劇場のあり方が現代に合わず?
とはいえ、舞台裏の状況は観客の立場からはうかがい知れない。そこで演芸場の利用が多い落語家の立川平林さんに聞くと、「舞台裏もきれいで、まったく古さを感じたことはない」と言う。舞台設備がそれほど重要ではない落語上演には支障のないレベルのようだ。ただし、「大劇場に足を踏み入れた際には、年季を感じた」とのことだ。
小劇場の利用が多い文楽の太夫・豊竹咲寿太夫さんは、「水管などの細部の内部構造が老朽化しており、大々的に解体することが不可欠と説明を受けている。雨漏りなどでそういった老朽化を感じることもある。バリアフリーなどの観点も鑑みて、アップデートは確実に必要と感じる。また、各階を繋ぐエレベーターが1台のみで、道具担当、各業務の職員、芸人がその1台を使わなければならず、やはり60年近く前に建てられた時代性なのだろう」と言う。
楽屋ではバリアフリーや動線の観点から考えると、時代から取り残された古い建物だと感じるということだ。
オフィスにしてもマンションにしても修繕を繰り返すことによって寿命を延ばしている。しかし、57年という年月が経過すれば、もはや建て替えしか選択肢がなかったということであろうか。
あるいは劇場のあり方という思想の変化が大きいのかもしれない。新しい建物に入ると、ハード面だけではなく、設計思想が昔とは異なると感じることはよくある。
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