「真っ暗闇での探検」が私たちに見せてくれるもの 「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の醍醐味

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とはいえ、不安定な時代。長らくの不況に、自分が生きていくのに精一杯の人も多い。誰かを気にかける余裕もないのが現状だ。

「その気持ちもわかります。でも、利己的になって、自分だけが得をしたところで、その先には何も残らないのではないでしょうか?

それこそ、私がターミナルケアを担当された方で、人生の後半戦につらい思いをされている方は、自分のことだけ考えて突っ走ってきた方が多い。愛でも富でも、誰かと分かち合わないと、本質的な幸せにはつながらないと気づかれる。『ありがとう』と言い合えることが、幸せだと。そんなシンプルなことに気づくのが最後だなんてもったいないですよね」

花は咲いている時だけが美しいわけじゃない

“何度でも開花する人生”とは、自分のために生きることとは限らない。

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「生前の(樹木)希林さんとこんな会話を交わしたことを覚えています。希林さんのお宅の和室には、立派な板戸があるんですが、そこには壁画技師の木村英輝さんの作品『枯れ蓮 Lotus revives』が描かれているのです。満開の蓮ではなくて、枯れた蓮を選ばれているところが、枯れゆく美学を大切にされている希林さんらしいなと思っていたのですが……」

その話を向けると、「花は咲いている時だけが美しいわけじゃないよね」と希林さんはつぶやいた。

「私も、その通りだと思っていました。日本人が愛してやまない桜を例えると花がない時期も、青く繁る青葉が美しく、道に心地よい日陰を作ってくれる。秋は、紅葉した落ち葉が綺麗だし、それが土に還れば、腐葉土にもなる。人も同じです。たとえば、子育て中のお母さんは、自分の花を咲かせるよりも、葉っぱを大きく広げて子供を守っているような状態かもしれません。でもその姿もまた美しいし、振り返ってみれば、最も輝いていた時だったりするのかなと。そう考えると、自らが咲かずとも、命が輝いている瞬間は多々あるのですよね」

人は一人では生きられないように、一人ではきっと咲けない。だから、咲いた時も咲いていない時も、それを愛おしく美しいと感じてくれる他者の存在こそが、人生の最たる希望だ。

 

芳麗さんによる連載10回目です
芳麗 文筆家、インタビュアー

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よしれい / Yoshirei

NHK山形放送局のキャスター業を経て文筆業に。女性の生き方をメインテーマに、雑誌、書籍、Webなど数多くの媒体で執筆。人物を掘り下げたロングインタビューを数多く手がけるほか、恋と愛、生活、カルチャーなどにまつわるコラムも好評。著書に『3000人にインタビューして気づいた! 相手も自分も気持ちよくなる秘訣』(すばる舎)、『ラブ・リノベーション』(主婦の友社)など。音声番組Voicy「芳麗の女と文化の話café」では、本連載に登場した方々とのリラックストークも。日々の生活や取材活動から、生きづらい時代を“幸せに生きるヒント”を多面的に探究して発信中。HPはこちら

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