北野武新作「首」、プロが見た驚きの感想【前編】 本日公開、「キャスティングには成功」したが…
そもそもこの作品は、昨年9月、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー契約問題で逮捕された角川歴彦会長直々の「案件」だったといわれる。
その大物プロデューサー逮捕、役員辞任の影響で、一時はお蔵入りの噂さえあった『首』には、実はそれだけではない「悪条件」が重なっていた。
映画的な強度が低下し「散漫な印象」が残った
まず、これまで北野作品を支えつづけてきた森昌行プロデューサーとの「決別」という事態だ。
事の起こりは、2018年3月の「オフィス北野」の分裂問題にあった。これにより森氏は同社にとどまり、北野武は新たに「T.Nゴン」という個人事務所を立ち上げ、事実上2人の関係は絶たれることになる。
映画製作に直接は無関係ではあるが、この時期の北野武のもう1つの節目となったのは、2019年の離婚だろう。そして今年5月のカンヌには、再婚相手の北野夫人が監督とそろってレッドカーペットを踏むという、ちょっとしたハプニングもあった。
満を持しての『首』は、だから、新生・北野武の試金石となるべき映画であったはずだ。
それが、『七人の侍』と並ぶどころか、時代劇としておよそ成功作とは言いがたい出来になったのは、端的に緻密さに欠ける編集のために、映画的な強度が低下し、全体に散漫な印象を残したからである。
この作品は、「小ぶりな協奏曲」ではなく「大がかりな交響曲」なのだ。
それにしては映画的オーケストレーション(編集・構成)の粗さが目立ち、手放しでは推しにくい出来上がりと言わざるをえない。
北野監督は、本作で脚本とともに編集も担当している。
失敗の要因は森昌行の不在、ならびに角川歴彦の途中離脱という悪条件により、仕上げ編集を最終的にチェックする役割を失った監督の孤軍奮闘が、結果的にマイナスに出たと見るべきだろう。
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