うつ病の男性が復職できなかった「本当の理由」 背後には「過去のトラウマ」があるかもしれない

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Sさんの「復職がしづらい」という反応は、これまでの恐怖体験の積み重ねによる防衛的な反応として起こっていると予想されました。このように、過去の恐怖体験に似た特定の状況において、肩や首などの筋肉が緊張したり、胸のドキドキが再現されたりすることは多くあるのです。

その分析をもとに過去のトラウマ体験に対する心理療法を慎重に行ったことで、Sさんの症状は改善し再就職時に同様の反応は見られなくなっていきました。

職場や日常生活で見られるトラウマ反応

・電話をかけるとき・電話に出るとき

日常でみられるトラウマ反応の代表的なものとして、「電話恐怖」があります。

電話をかけたり出たりするのが苦手という人は少なくないと思いますが、着信音が鳴ると思わず身震いしてしまうほどの恐怖を感じたり、手汗が大量に出たり、動悸がしたりするレベルの人も決して珍しくありません。

こうした反応は、過去に自分が恐怖を感じる相手から何度も執拗に着信があったり、電話口で怒鳴られるような強烈なクレームを受けたり、近親者の病状の急変や不幸の連絡を電話で受けたりした経験が原因になっていることがあります。

・プレゼンをするとき

「プレゼン恐怖」も職場における典型的なトラウマ反応です。

みなさんは大きなプレゼンテーションの機会で大失敗をして恥をかいたり、頭が真っ白になるほど不安や緊張を感じたりしたことはありませんか? 

その体験がきっかけとなり、それ以降少人数のオンライン会議でも意見を求められるだけで手の震えを感じたり冷や汗をかいたりしてしまうことがあります。人前で話すという特定の刺激をきっかけに、溜め込まれていた「未完了の恐怖」が再現されてしまうのです。

・身近な人が亡くなったとき

「亡くなった母のことを話そうとすると、いまだにいつも涙が出そうになってしまうんです。亡くなったのはもう何年も前のことなのに」

そう話す方がいました。

この方は、長い時間が経過しているのに、いつまでも心を大きく揺り動かされてしまうことについて「自分はなんて弱い人間なんだ」「進歩がない」と自分を責めていました。

しかし、この「時間がたっても小さくならない」というのがトラウマ反応の大きな特徴なのです。

本来の自分の心を守るために、壁の向こうの「わたし」に閉じ込めた悲しみが当時のままの熱量で保存されており、何かのきっかけで爆発的な感情とともに表に現れる。これこそがトラウマ反応だからです。

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