うつ病の男性が復職できなかった「本当の理由」 背後には「過去のトラウマ」があるかもしれない

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トラウマも「身体」の問題

前回の記事では、コントロールできない感情を紐解くキーワードは「トラウマ」だとご説明しました。数々の研究でトラウマも「⼼の問題」だけではなく「身体の問題」でもあると考えられるようになってきています。

衝撃的な出来事やストレス体験があると、筋肉が緊張してホルモンが分泌されます。こうした反応が身体に記憶され、「Aという出来事が起こると、Bという身体反応(情動)が出る」という一連の流れとして再現されるようになるのです。

このような身体の記憶は「手続き記憶」と呼ばれます。自転車を運転するときに無意識にペダルやハンドルを操作できるのと同じように、「身体が勝手に動いてしまう」レベルで身体に染み込んでいる記憶のことです。だからこそ理性や気合いではコントロールできないのです。

たとえば、車の事故から命からがら生還した人が、その後しばらくしてから自分の車にガソリンを入れているとき、突然胸がドキドキしはじめる(=情動)ことがあります。

そのドキドキという身体反応を脳がくみとって、激しい不安や恐怖という感情にラベリングします。そうすると、急にここから逃げ出したいという衝動に襲われるのです。

ガソリンのにおいをきっかけに、身体が記憶している恐怖(=手続き記憶)が再現されている状況ではありますが、反射的な衝動として現れるため、本人はなぜ逃げ出したくなるのかがわからないこともあります。でも、こわいのです。これが「トラウマ反応」として生じてくる感情の特徴です。

このように、特定の状況によって、反射的に感情や身体反応、記憶などが引き起こされるというのが、トラウマ反応の基本的なメカニズムであるということを覚えておいてください。

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