うつ病の男性が復職できなかった「本当の理由」 背後には「過去のトラウマ」があるかもしれない

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ここで、日常に潜むトラウマ反応の事例をひとつお伝えしたいと思います。

僕は産業医として、休職や復職の判断にも関わっています。その中で、療養によって体力や集中力が回復したにもかかわらず、いざ復職の期日が近づくと不安や落ち込み、脱力感がぶり返してしまい、休職延長となる方によくお会いします。

過去に出会った、「うつ病」の診断で会社を休職となったSさんという男性もその一人でした。とても真面目な方で、休職中も通院を欠かさず、産業医の指導にも真摯に応じていました。勤勉なタイプであり、「いつまでたっても治らない自分」に対する自責の念や無力感を募らせていました。

その後も、休職が延長になると症状が穏やかになるものの、予定の復職期限が近づくと症状が悪化するというサイクルを繰り返したSさん。そのうち、就業規則上の休職の期限に達しても復職の目処が立たないため、退職となってしまいました。Sさんは退職後も、「自分が情けない」「こわくて再び社会に戻れる気がしない」と、再就職に後ろ向きの姿勢が続いていました。

本当の理由は「過去の恐怖の再現」だった

Sさんと当時の身体反応や感情の深掘りをすると、あることがわかりました。

それは、在職時、納期に遅れたときに年配上司に大声できつく責められた経験があったことです。復職が視野に入ると「またあんなことがあったら」と体がこわばり、そうした身体反応とともに、恐怖と脱力感を感じていたようです。これは防衛反応としての「抑うつ(ゆううつな気分のこと)」であり、通常のうつ病のケースとは違って、トラウマ反応が深く関わっているものと考えられます。

Sさんとさらに話していくと、初めて会ったときからその高齢の上司のことがなんとなく苦手で、萎縮してしまっていたこともわかってきました。最終的にはその気持ちの根底には、過去に父親や高校時代の部活動の顧問に恫喝された経験があり、そもそも年長男性とのコミュニケーションによる大きな傷つきがあることも明らかになりました。

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