日本では偏見の対象「左利きの女性」苦難の歴史 なぜ左手で箸を持つと「不作法」と言われたのか

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ではなぜ、左利きだと「しつけがなされていない」とみなされるようになったのでしょうか。そのおおもとの原因は、儒教にありました。

東アジアのなかでも漢字文化圏に属する国において、国家秩序の維持や道徳規範を守るうえで長らく重要な役割を果たした儒教。孔子を始祖とする倫理思想や信仰の体系を指しますが、200年以上にもわたる鎖国を行っていた江戸幕府では、封建社会を維持すべく多くの儒学者を重用しました。

それゆえ儒教の長所も短所も日常生活の隅々にまで浸透しましたが、そんな儒教における「国家から家族にいたる最も重要な道徳的観念」こそが「礼」です。噛み砕いていえば集団秩序を維持するための約束事であり、ひいては他人に不快感を与えない気配りや所作も「礼」のひとつです。

「礼」といえば、儒教において尊重される五経のひとつに『礼記(らいき)』があります。前漢期(紀元前1世紀)に編纂され、日本においても礼儀作法の原点であることは言わずもがな。その古典に、男女の区別なく、ものごころついたばかりの子どもへ最初に徹底すべき作法が記されていたのです。

《子能食食、教以右手》
(『礼記』「内則」篇、第十二)

この原文を訳すと「子どもが自分で食事できるようになったら、右手を使って食べるように教えなさい」。つまり口に食事を運ぶ手を「右手」に限定していたのです。

日本における「箸は右手」の規範の強さ

ただ『礼記』には、イスラム教やヒンドゥー教のように「左手」を不浄の手とする観念で封じるような記述が見当たりません。そのためか、日本の江戸期に書かれた育児書や随筆では、日常のしつけを行うための権威的なよりどころとして『礼記』が引用されてきたきらいがあります。

日本で最初の本格的育児書として誉れ高い、香月牛山著『小児必用養育草』(1703〔元禄16〕年)は、左利きの子どもへの対処法については、かの『礼記』の一節に触れつつ「箸だけは右手に」と強調しました。あえて裏面を読むような見方をすれば、この一節は、医師としてではなく道徳家として、「箸づかいを見れば、その親がわかる」と諭していたともいえます。

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