日本では偏見の対象「左利きの女性」苦難の歴史 なぜ左手で箸を持つと「不作法」と言われたのか

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それにしても女性にばかり左利きに対する贖罪意識を植え付けていた、かつての日本。その余波は「男女雇用機会均等法」がスタートした1986年においても顕著でした。たとえば同年に女子学生が会社訪問した際、面談を担当した男性社員から《君は左ギッチョなの? 社は客商売だし、器具の扱いも不便になるから採用はちょっと難しいね》と告げられたという、新聞への投書がありました(『朝日新聞』1986年11月2日)。

この女子学生が憤った左利き蔑視こそ、「もう1つの女性の人権問題」そのものです。さらに同年、松田道雄が《女の子だからとくに左ききはいけないというのは、男本位のかんがえ方です》(『松田道雄の安心育児』)と社会的な意識の変革を強く主張したことからも、いかに多くの左利き女性が口に出せない苦労を味わってきたかが窺い知れます。

「両利き」の水森亜土も悩んでいた

この苦悩は、両手を使って器用になんでもこなせる才女であっても例外ではなかったようです。箸に包丁、さらにはイラストを描いたり文字を書くことも両手でこなせる水森亜土は、少女時代の切ない気持ちを、『週刊読売』1991年4月28日号でこう回想しています――

《左ギッチョじゃ絶対にお嫁さんになんてなれっこないと、子ども心に切なくて不安いっぱいでした。そのせいか、おままごとはいつもお嫁さんごっこで、この時は腕力にモノを言わせて必ずお嫁さんになりました。必死で、小さな包丁を右手に持ってご馳走をつくり、ご飯も、右手にしゃもじをしっかりと握ってお茶碗に入れました。もちろん、何度もしくじります。五回、六回……でもできた時の大感動たらありませんでした》

イラストレーターやジャズ歌手など多くの顔をもつ水森でさえ、「左利きはお嫁にいけない」という言葉の呪縛にとらわれていたとは。誰もが羨む器用さの裏側には、想像を絶する涙ぐましい努力があったのです。

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