ジャニーズ問題、日本企業が知るべき「海外の視点」 ビジネス優先で「見て見ぬふり」は許されない

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コロナ禍で一時的に停滞したとはいえ、グローバルビジネスに参入する日本企業は増える一方で、それも進出先の国の国民に愛されるローカリゼーションを推し進めている。筆者もこの20年間で100社以上の日本企業のグローバル人材育成を担当し、ローカリゼーションのための赴任国の歴史、宗教、社会ルールなどの異文化理解について講じてきた。

今回の事件は、コロナ明けで再始動したグローバルビジネスの出鼻をくじくものでとくにビジネスの主流が社会的責任投資であるESG(環境、社会、コーポレート・ガバナンス)に移行する時代にはビジネスの痛手となる。圧倒的権限を持つ企業創業トップが、長期にわたり繰り返した多数の犠牲者を出した性加害は、社会に害悪を与える行為として関わりを持つ企業の信頼度も貶める。

欧米でも同種の犯罪が隠蔽されたことはあった

同種の犯罪は欧米でも隠蔽されることは少なくなかった。双方の合意によらない一方的な性暴力の範囲は広いが、エンターテインメントの世界で起用権限という利益供与の圧力を利用し、逆らうことが困難な弱い立場で性暴力の被害を受けたハリウッド映画界の女優たちの例は記憶に新しい。彼女らの告発の結果、ハリウッド映画界にMe Too運動の拡大をもたらした。

この運動で告発されたのは映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン。長年にわたってセクハラ行為を繰り返していた彼に対し、ニューヨークの裁判所は2020年に禁錮23年の実刑判決を下し、さらにロサンゼルスの裁判所が禁錮16年を追加した。権力を利用した性暴力に対する、人権にうるさいアメリカの司法の下した量刑は非常に重いものだった。

人権大国といわれるフランスでも権力を持つ者の性暴力はふたがされることが多かった。

フランスのカトリック教会では聖職者による少年への性的虐待犠牲者が、1950年代から現在に至るまで33万人に上るとする衝撃的な調査報告書を、2021年に独立調査委員会が公表し、その1カ月後、犠牲者を補償する基金を創設した。この問題については、それ以前から何度か聖職者の摘発があったにもかかわらず、カトリック教会は正面から向き合うこともなく社会問題化もしなかった。

フランスでは2004年、性暴力の被害者が成人になって以降の訴えは20年間の時効期間が定められ、その後、家庭内性暴力(DV)を含む訴えが急増した経緯がある。強姦罪で被害者が15歳未満の場合は20年以下の禁錮刑、権力乱用が加われば10年以下の禁錮刑が過重される可能性もある。

欧米諸国は性暴力に対する司法の取り組みが強化されているだけでなく、メディアは見て見ぬふりをすることは許されなくなった。

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