ロッキーの「冷凍肉トレーニング」がケアだった訳 自分の夢を仮託したくなる社会的存在への変容

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「ロッキー」の独自すぎる練習には、深い意味があったようです(写真:Yuri Arcurs Peopleimages/PIXTA)
シルベスター・スタローン主演の不朽の名作映画『ロッキー』(1976年)。その後、シリーズ化することになっていく同作品の魅力はどこにあるのか。奈良県東吉野村で「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」を運営する青木真兵氏が、白井聡氏の著書『武器としての「資本論」』などから読み解く。

「終わりなき日常」を生きる「場末の三流ボクサー」

イタリア移民のロッキー・バルボアは、「場末の三流ボクサー」(本人談)です。三流ボクサーの彼がボクシングだけで生活できるわけがなく、借金取りの仕事もすることで何とか暮らしています。

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楽しみといったらペットの亀の世話をすることと、酒場で仲間と一杯傾けることくらい。いわゆる「終わりなき日常」を生きています。しかし彼はこの生活の中で決して自暴自棄にならず、身を滅ぼすことなく生活しています。

冒頭のボクシングの試合シーンで、ロッキーは相手の反則攻撃に対する怒りも加わり勝利します。この勝ちを卑下するわけでもなく、ファイトマネーをしっかりもらい、誇らしげに自身の勝利を仲間に吹聴します。とはいえこれも大げさに「話を盛る」わけではなく、「お前にも見せてやりたかったぜ」と抑制が利いています。ですがボクシングで世界チャンピオンになることは夢にも思っていません。

借金取りの仕事でも「金を取り返すためなら何でもする」というタイプではなく、ボスから「相手の指を折っちまえ」と命令されたときにも言うとおりにしなかったため、「そんなんだからなめられるんだ」と言われてしまう。

確かにロッキーはいつもボスの運転手にも揶揄われています。また近所に住む顔見知りの少女が不良仲間とつるんでいると、そこから彼女を引き離し「悪い奴と付き合うとロクなことがないぞ」と説教しますが、その少女にも馬鹿にされてしまう始末。とくに信心深いことを示すシーンはありませんが、ロッキーは一定の倫理観を保っているのです。

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