電気はあらゆる経済活動に不可欠であり、これがボトルネックになると、経済活動が制約されてしまう。今後の日本経済を考えるために、電力制約が生産に与える影響を定量的に評価する必要がある。ただし電力不足は終戦直後の混乱期を除けば初めてのことであり、生産活動への影響を過去のデータから評価するのは難しい。以下に計算を試みるが、あくまでも「一つのありうる姿」を示すものに過ぎないことを述べておく。
まず最初に、最近の情勢を整理しておこう。4月15日、東京電力は今夏の供給力の見通しを上方修正し、7月末に5200万キロワット、8月末に5070万キロワット程度になるとした。4月20日には、5500万キロワットに引き上げると表明した。5月13日には、8月末に5620万キロワットになるとした。このように東電の見通しは大きく変動している。結局、政府は大口需要家の削減目標を25%減から15%減に変更した。
政府は5月6日、中部電力に対し浜岡原子力発電所のすべての原子炉を停止するよう要請し、11日に中部電力はこれを受け入れた。
中部電力の2011年の電力供給計画では、最大電力需要は2560万キロワット、供給力は2999万キロワットであり、439万キロワットの供給予備力があるとしていた。しかし、供給力が365万キロワット減少するため、7月には供給不足に陥る可能性が出てきた。これにより、中部電力管内においても、突発的な停電を避けるために、電力削減計画の実施が必要となる可能性がある。
これまで、サプライチェーンが西日本へ移動すれば、東日本以外では生産制約はなくなると考えられていた。しかし、東京電力と東北電力の特定規模需要の電力販売量の合計は、中部電力と関西電力の合計の1・3倍だ(09年度)。したがって、夏の電力不足を避けるため、東日本の生産活動の2割が中部電力と関西電力の管内に移ったとすれば、その管内での電力需要は26%増える。そうなると、今度は西日本で電力不足が発生してしまう。このため、今夏の電力不足は、生産拠点の国内移動だけでは解決できない全国規模の問題となった。