東日本以外の地域では、「電力制約はないので、復興投資の拡大に伴って生産を拡大できる」とこれまで考えられてきた。しかし、浜岡原発の運転休止で状況は変化した。西日本のほかの地域でも、定期点検に伴う休止や、原発の運転開始ができなければ、電力制約が発生する可能性がある(5月11日、北陸電力は志賀原発の再稼働のメドが立たないため、「節電を呼び掛ける事態もありうる」とした)。
こうした事情がないにしても、サプライチェーン破壊による影響が西日本でもあると思われる。3月には、被災地以外でも鉱工業生産指数の下落率が被災地のそれの半分以上になった。したがって、東日本において、前述のような生産活動の頭打ちが生じれば、西日本の生産にも一定の制約が生じることになる。
それがどの程度の規模になるか定量的評価が難しいが、ここでは、東日本における落ち込みの半分だけの影響が他地域にも及ぶと仮定しよう。そうすると、東日本以外の鉱工業生産指数は、震災直前より4・1%程度低い水準になる(前の計算で5200万キロワットを仮定した場合)。
ところで、09年度の特定規模需要の販売電力量は、東京電力が1727億キロワット時、東北電力が499億キロワット時であり、この合計は全国(5283億キロワット時)の42・1%だ(特定規模需要とは、電力自由化の対象となっている大規模な需要)。
このウエートでの加重平均を日本全体の鉱工業生産指数と考えると、今後の鉱工業生産指数の全国の平均値は、10年度の平均値より5・9%減少となる。製造業の付加価値がGDPに占める比率は2割程度なので、GDPは1・2%ほど低下することになるだろう。これは、内閣府が推計した生産設備損壊の影響より大きい。
電力不足問題は、日本国内だけでは解決できないものだ。積極的な海外移転で解決する必要がある。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年5月28日号)
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