(第64回)円高という安全弁をいま開く必要がある

(第64回)円高という安全弁をいま開く必要がある

今年1月に日本国債の格付けを引き下げた米スタンダード&プアーズ(S&P)は、4月27日に日本国債への格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。

東日本大震災の惨状を伝える第1報に接したとき、およそ経済に関心のある人なら誰でも、「復旧のために、これから巨額の資金が必要になる」と青ざめたに違いない。だから普通の国であれば、翌日、首相がテレビに登場し、「この悲劇から立ち直るため、国民の皆さんに税負担をお願いしなければならない」と訴えたはずである。ところが、この国では、そうした緊急アピールはなかった。

それどころか、大震災から2カ月経つのに、復興予算の財源がどうなるのか、まったく見当がつかない。これでは、今後の国債消化について五里霧中になって当然だ。S&Pが格付けを引き下げなかったのは、日本政府に対する外交的配慮だろう。

戦争であれ災害であれ、巨額の資金が必要になれば、インフレの危機に直面する。そして増税はインフレ防止のための安全弁である。だから歴史上、こうした事態に直面した国家の指導者は必ず増税を求めた。

現代の日本では、幸いなことに増税以外にも安全弁がある。それは対外資産を取り崩すことだ。この可能性についても、大震災の第1報に接した世界中の金融関係者は思い浮かべたはずだ。それを見越して、円買い投機が殺到し、円ドルレートは、一気に史上最高値を更新した。

アメリカ財務省は、これに仰天したに違いない。なぜなら、日本の対外資産の大部分は、アメリカ国債だからだ。それが引き揚げられて復興資金に使われてしまえば、アメリカ国債は暴落し、金融市場は大混乱に陥ってしまう。ところが、アメリカにとって幸いなことに、日本には円高に対する理屈抜きの恐怖感がある。だから、アメリカ国債暴落を回避するのは容易なことだ。今回の協調介入が、いずれの国のイニシアチブで行われたのかはわからないが、アメリカの意図が日本の輸出産業救済でなかったことは明らかだ。

協調介入の効果は絶大だった。なぜならそれは、「円キャリー取引をいくら行っても大丈夫」という明確なシグナルだからである。今回の介入で、「70円台の円高は政策当局が許さない」ことが保証された。したがって、金利差を目的として円をドルに換えても、一定以上の為替差損を被る心配はなくなった。かくして、アメリカからの資金流出と国債の暴落は回避された。

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