原材料が高騰する中で円高が増益をもたらす
前回述べた輸入物価の上昇は、海外からのインフレ要因である。右で述べた復興投資の増大は、国内のインフレ要因である。そしてインフレを回避するための安全弁(増税と円高)は、二つとも閉められてしまった。だからインフレ圧力が高まって爆発する危険は十分にある。「前門の虎、後門の狼」とは、まさにこうした状況を指す言葉だ。
深刻なのはインフレになっても雇用は増大しないことだ。むしろ失業率は高まる可能性が高い。新規採用については、すでにそれが現実化している。つまり、今後ありうるのは、「物価も失業率も上昇する」という「スタグフレーション」なのである。これは、第1次石油ショック後のイギリスとよく似た状況だ。
ところで3月の自動車輸出は減少しているが、それは震災でサプライチェーンが破損したことによる。自動車生産高は、今年末まで完全には復旧しないという。したがって、円安になっても輸出量は増えないことに注意が必要だ。
他方で、原油をはじめとする原材料の価格高騰は、円高になれば緩和される。これも第1次石油ショック後と同じ状況だ。石油ショック後、円はドルに対して増価したので、石油価格上昇の影響を緩和できた。ポンドは減価したので、石油価格上昇の効果が大きかったのだ。
「円高が企業利益を増大させる」という現象は、2009年3月期に実際に見られた。東京ガスは、09年3月期の連結決算で、08年10月時点で予想していた税引き後利益90億円を、翌年1月に330億円に上方修正した(さらに4月に410億円に再修正した)。これはLNG(液化天然ガス)の輸入コストが円高で減少したためだ。このときは電力10社も、全社が連結最終損益の予想を上方修正した。火力発電燃料である原油の輸入コストが、円高になった分、目減りしたためだ。
ビール大手のサントリーも、原料コスト低下の恩恵で、08年12月期連結決算で、過去最高の営業利益、税引き後利益を記録した。電力・ガス、食品、空運関連の企業は、輸入のみで輸出がないため、円高で利益が増加するのは、当然なのである。
注意すべきは、このとき鉄鋼業もそうなったことだ。鉄鋼業の利益に為替レートが及ぼす影響は、製品輸出があるため一般には明らかではない。しかし、09年3月期には、原材料価格が高騰して輸入代金がドル建て輸出代金を上回るという「ドル支払い超過現象」が発生したため、円高が利益を増加させたのである。