凶暴化する天災「対策には限界がある」という事実 アメリカの現状が示す「強靱化」の実行不可能性

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だが、拡大し続ける被害が示しているのは、世界温暖化の影響にとどまらない。2012年のハリケーン「サンディ」が甚大な被害をもたらして以降、連邦政府が対策に投じた資金は何十億ドルにも上る。護岸や雨水管、建築科学、森林管理などの方策に投資することで、気候変動の影響に地域社会が一段と耐えられるようにしようとしているわけだ。

しかし、甚大な被害をもたらす大規模な災害が増える中、そうした努力の限界が見え始めている。

建築基準厳格化を阻む住宅不足という難題

バイデン政権はそうした懸念を認識し、対策費を増やしている。連邦緊急事態管理庁(FEMA)は「共同体のレジリエンス(対応力)構築を助けるため、これまでにない額の費用を投じている」と、同庁の広報担当ジェレミー・エドワーズは声明で述べた。FEMAは9月に入り、連邦政府の予算を優先的に受け取ることができる「災害レジリエンス地区」に500近くの共同体を指定した。

「地方の共同体はまさに気候変動の最前線に立っている」と話すのは、政策コンサルティングNPO「ヘッドウォーターズ・エコノミクス」の研究員で、連邦政府のレジリエンス予算の配分を調べているクリスティン・スミスだ。「しかし、多くの共同体は、対策を行う資源を持っていない」。

バイデン政権はまた、建築基準を厳しくするよう州や地方の政府に求めている。基準を厳格化すれば、洪水やハリケーン、山火事などの被害を大幅に減らせるだろう。

ところが、基準の厳格化は建築初期費用の上昇を意味するため、深刻な住宅不足に悩まされているアメリカにとって大きな阻害要因となる。連邦政府の努力にもかかわらず、最新の建築基準を適用している地域は、保険業界から資金提供を受けている研究グループ「インスティチュート・フォー・ビルディング・アンド・ホーム・セーフティー」によると、全国の3分の1程度に過ぎない。

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